愛子
「今日も裕樹とデートなんだ〜」
う〜ん。愛子ちゃんたら今日もラブラブだなあ。
「で、いつ結婚するの?」
と言う冷やかしにも
「希望としては来年くらい。っていうか、来年くらいにはそんな話をして
再来年くらいには結婚してたいな。
子供は結婚3年後!!」
なんて、明るくきっちり冷静に(笑)、将来のプランを話してくれます。
「だって、すっごく愛しちゃってますもん♪」
あらあら。
私達がこの年の頃って、「愛している」なんて言葉、恥ずかしくて
余り使わなかったけれど、
今は普通なのかしら??
そんな事を考える自分に、もう「若い世代」ではなくなったなぁと
少し寂しく感じながら、その反面、
年を重ねた分だけより多く見てきたカップルを思いだし、
さて愛子ちゃんの所は、愛子ちゃんの一人よがりか??
それとも、二人して純愛熱愛100%なのか??
見極めてやろうと、おばさん根性丸出しの私もいます。
そんな愛子ちゃんは私と同様、フレックスタイムをフルに活用しています。
と言えば聞こえはいいのですが(笑)
退社時刻を早める事より、
朝の時間をゆったり使いたいと考える私達は、
出社はいつもギリギリの時間。
その分退社時間もほかの人より遅くなります。
だから二人の待ち合わせは、いつも会社のビルの前。
先に仕事の終わった裕樹さんが愛子ちゃんを迎えに来てくれているのです。
…そこで待ち合わせをしている事は知っていたけれど
毎回だとは知りませんでした。
「だって、その分より長く一緒にいられるでしょう?」
確かにそうだけど、私だったら、他人の目と言うか、
会社の人に見つからないよう、もうちょっと陰の所で待ち合わせするけど。
「え?どうしてですか? 見られて困る事、何もないのに」
やっぱり世代は違う。
いや、愛子ちゃんが変わってるのかしら??と思いながらも、
おもわず 「そうね。こりゃまた失礼」
と謝ってしまう私でした。
珍しく下まで一緒に降りてきた私は裕樹さんと初めて対面です。
ほぉぉぉ。
加勢大周似のやさしげな良い男ではないですか。
こりゃ、愛子ちゃんが惚れてしまうのも無理ないわ〜〜。
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私はいいと言ったのだけれど、紹介された流れで
ついつい一緒に晩御飯。
「でも、ほらデートなんだから。二人きりの方がいいんじゃない?」
そうは言って見たけれど
「いいんですよ。たまにはこう言うのも楽しいよね」
そう言う愛子ちゃんに、やさしくうなずく弘樹さん。
二人のマシュマロみたいな雰囲気に負けちゃって
なんとも断りづらく、結局近くの鍋物屋さんに足を運びました。
色々気を使って、オーダーしてくれる弘樹さんに加え
愛子ちゃんが絶え間なく二人の話をして場を盛り上げてくれます。
始めこそ、二人は実際どんな関係??なんて
きわめて冷静に
人間観察をしていたつもりだったけど、
気がつけば私は
「こんな二人が迎えてくれる家庭なら遊びに行くのも楽しいだろうなあ」
と考えてしまうほどすっかり二人が気に入ってしまいました。
少しだけデートのおじゃまをするつもりが、
なんと夜の11時すぎまで盛り上がってしまい、
楽しい会話とおいしい食事を楽しんだ私達は
そろそろ終電の時間を気にしなければならない事に気がついて
やっとその突然の会をお開きにしました。
「彼ってとってもいい人だとおもいませんか?」
次の日会社で私より先にそう言う愛子ちゃん。
ええ。私もそう思うわ。
「結婚式には是非呼んでちょうだいね」
私がそう言うと、
もちろんですと愛子ちゃんは答えてくれました。
…最近、愛子ちゃんの元気がないなあと気がついたのは
そんなことがあってから3ヶ月もたった頃でしょうか。
「最近元気ないんじゃない? どうかした?」
そう声をかけると、
「そう見えますか? 実は私、裕樹と別れちゃったんです」
あらあら、一体どうしちゃったの?
…くだらない意地の張り合いなら、さっさと謝っちゃった方が身のためよ。
弘樹さん、あんなにカッコいいんだもの、
あんまり長い時間放っておいたらほかの人に取られちゃうよ。
私が深刻過ぎないように、軽い調子でそう言うと
「意地は、張ってないと思います。
ただ、将来に対する考えが全く違っていて、
これじゃ、やっていけないなってお互いに理解したんですよ」
なあんて、なんとも毅然と言ってくれるけど…
愛子ちゃん、あなたさっき「別れちゃった」って言ったのよ〜。
大丈夫?
それって、やっぱり未練があるからじゃなぁい?
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きっかけは自分で言うのもなんだけど些細な事ですね。
映画見てて、子供が出てきて、それが可愛くて。
成り行きで見終わってから「子供がいたら…」
と言う話になったんです。
田舎でのびのび育てたいと言う彼と
こっちで色々な教室にいれて、物事を吸収させたい私は
最初は楽しく話していたつもりなのに
気が付いたら真っ向からぶつかっちゃって…。
あの日はそれでも、今日のことは今日のことだから
この次は笑ってあおうねって
言って別れたんですけど、
喧嘩の後仲直りしても、なんとなくしこりが残っちゃう
感じがしたのは、
あの後からの気がします。
ついつい、彼の気に入らない所を見つけると
彼の良いところを思い出す前に
結婚したら、彼のこんな所とも付き合っていかなきゃ
行けないんだなと考えてしまって
気分がずんと重くなる。
彼も同じだったんじゃ、ないでしょうか?
割と気に入らない事があるとすぐ口に出す方だったのに、
最近ずっと、ちょっと言い争い見たくなっただけで
「もういい。なんでもない」 って
話を無理やり終わらせてしまう。
だから、私が「別れましょう」と言って
裕樹があっさりOKした時も別に不思議じゃありませんでした。
ただ、3年もの時間は、こんなにあっさりも
白紙になってしまうんだなあと思いましたけどね。
…二人がすれ違ってしまったのだと言う事はわかるけれど
それは、つまりお互いがお互いを嫌いになったって言う事?
というか、愛子ちゃん、あなたそれで裕樹さんが嫌いになった
ってこと?
「彼の良いところも沢山知ってますから、好きな所もあります。
でも、将来の目指しているところが違う人とは
やっぱり、
だんだんやって行けなくなっちゃうんですよ。」
お〜。かっこいい大人な女だねえ。
でも、あなたみたいな可愛い可愛いしたお嬢さんに
言われても、なんだか私は、そうなのね、って言えないわ。
とはいえ、それで良いのかなあ…と思いながらも
私にはどうする事も出来ず。
なんだかんだと時は過ぎ、
その4ヶ月後、
愛子ちゃんのところに白い封筒が届きました。
裕樹さんと、ほかの女性の結婚式の招待状です。
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「先輩、これ〜…」
そう言って、愛子ちゃんは白い封筒を見せてくれました。
眩いばかりの白い封筒に、淡いブーケの模様。
以前付き合っていた男性に続いて印刷してあるのは
知らない女性の名前。
あ〜。
これは結構きついですね。
「やっぱり、別れた男から先にこういう物もらうとな〜」
思わず猫をあやすように頭をなでてあげると
「すっごい、悔しいです」
素直に自分の心をあらわにする愛子ちゃんでした。
怒ったような物言いだけど、その顔はやっぱり
ぺしゃんとつぶれたようにしょげて
かわいそう。
「じゃ、今日は女だけで飲みに行くか! ば〜っとしゃべっちゃったら、すっきりするかもよ」
別にいいたい事なんて…と愛子ちゃんは乗り気ではありませんでしたが
私の年長パワーに押されてしぶしぶ承諾し、
ともかくその日は一緒に出かける約束をした私達でした。
退社時間間際の上司からの残業要請を
腹痛と言う見事な演技でかわした私達は
女二人が酔っ払って管を巻いても見っとも無くない様に
あらかじめ騒がしい場所を選んで、腰を落ち着けます。
女二人である事に乾杯をし、取り止めの無い会社での出来事を話し、
あまり唐突過ぎない頃に私は聞いて見ました。
「結婚式、行くの?行かないの?」
上目遣いに私を見る愛子ちゃん。
「行かない…かな?」
「先に結婚されちゃったのが悔しかった?
それとも、まだ未練がある?」
「…っていうか、あ、結婚するって言う事もショックでしたけど
私、裕樹は絶対私のところへ戻ってくるって自信があったんです。
それなのにいきなり招待状が来て
こんなオンナと結婚するなんて。それが一番ショックなんですよ。」
そうでしたか。
って言う事は愛子ちゃん、裕樹さんが戻ってきたら
受け入れるつもりだったってことね。
「そう、ですね。だって、別れてからも私と裕樹は
ピッタリあうなあと思っていましたから。
好きとか、嫌いとかそう言う問題じゃないと思っていましたけど、
やっぱりそれって、私が今でも裕樹のこと好きだって言う事かなあ」
そうかもね。
始めはそんな風にしみじみ話していた私達ですが
気がつけば、
どんな服装で結婚式に行くか、
どんな風にして結婚式をぶち壊すかで盛り上がり
やはり、にぎやかな居酒屋を選んだのは
間違いではなかったと思えるほど大盛り上がりをしてしまったのでした。
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酔った勢いの私達は、どんな風に結婚式をぶち壊そうかと、
例えば二人の前途を祝福した乾杯でいかにして
さりげなくグラスを割るかとか。
(結婚式場って式の雰囲気を壊さないよう
落としたくらいではなかなかグラスが割れないように出来て
いるでしょう?)
キャンドルサービスでテーブルに回ってきた
裕樹さんに、もしくは奥さんに
どんな言葉をささやいてやろうかとか。
おとぼけさんとは勘違いされずに
上手い具合に新郎新婦を刺激する
ウエディングドレスに似たドレスの研究とか。
それはそれは壮大なる結婚式ぶち壊し計画を練り上げたのですが、
結局愛子ちゃんが実行したのは
着ていくドレスの色を淡いピンクとしただけ。
とってもおりこうさんに式に出席したのでした。
「奥さんね、もう妊娠してたんですよ。
見た目にはわかんなかったけど、最後の挨拶で
自分たちで「お腹の中の子供と共にがんばって行きます」
って言ってたから」
どおりで式の最中も嫌味なくらい奥さんに
気を使っていると思った。
そんな事をいいながら我が家で引き出物を開けている
愛子ちゃん。
人生何も悪い事ばかりじゃない。
愛子ちゃんにだって、きっとすばらしいパートナーが待っているわ。
その時、そんな言葉をかけた私。
「一番好きな人とは結婚できないとも言いますものね」
そんな事を、ちょっと寂しそうに返してくれました。
大丈夫よ。
こんなにかわいい愛子ちゃんだもの。
他の男性が放って置きやしないわ。
そして、その3年後、今度は私のところに寿マークの
白い封筒が届きました。
もちろん送り主は愛子ちゃん。
ぜひとも出席させていただくわ。
花嫁のブーケは私がドレスに合わせてアレンジするから
まかせて頂戴。
そしてそのまた2年後、私のところにかわいい赤ちゃんの顔が
写ったはがきが届きます。
愛子ちゃんも、お母さんです。
あの子供子供した愛子ちゃんが、と思うと
不安なような、うれしいような
ちょっとくすぐったいような。
そんな気持ちで私は新しいベビー服の入った
とろけそうにかわいいラッピングの
箱を片手に彼女の家へおじゃまするのでした。
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「もうすっかり、お局様ですよ」
私は三年前ダーリンが事務所を開いたのを機に
仕事を辞めてしまったので
会社の事はすっかりわからなくなってしまったのですが
新しい人もずいぶんと入り
感じもかなり変わったようです。
「良いじゃない。顔色一つ変えただけで嫌な仕事他の人に
まかせられるんじゃない?」
私が笑ってそういうと
いや、そこまで迫力つきたくないんですけど
といいながら、
一人娘の香奈枝ちゃんのおむつをささっと替えてしまう。
仕事では今でも愛子ちゃんに負けないと思っていますが
育児ほど「習うより慣れ」と言うものは無い訳で、
こればかりは敵わないなあと
そんな様子に見惚れてしまいます。
「実はね、先輩。この間裕樹から連絡があったんです」
しばらく聞いていなかったその名前に
一瞬ピンと来ません。
ほら、元彼で、一緒に食事した事もあったじゃないですか。
そう言われて、やっと思い出しました。
「なんで?」
「離婚したんだそうです」
「そう。…ずっと連絡とってたの?」
「いいえ」
「じゃ、どうして連絡先知ってるの」
「会社の方に連絡があって。私、会社も部署も変わってなかったから」
なるほどね。
「で、彼なんだって?」
「よかったら、ちょっと会わないかって言われました。」
今更、なんなのよ。
私はそう思ったけれど、愛子ちゃんはどう思ってるのかしら?
「で、行くの?」
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「で、行くの??」
と言う私の問いに少し押し黙る愛子ちゃん。
「向こうにもお嬢さんが一人いるんです」
週末とか、どうしていいかわからないから、
良かったら一緒に遊ばないかって。
そう誘われたと、その時、愛子ちゃんは私に言ったのだけれど
どうもそれは、会話の最後の最後の最後の部分だった見たい。
私は、旦那さまに包み隠さず話して、了承を得るか、
それとも一緒に行ってもらうか出来るなら
会っても良いんじゃない?
そう答えました。
でもその二つはどうやら実行されることなく、
愛子ちゃんは、裕樹さんに会いに行った様で。
会ってきたんですと
報告を受けた後で教えてくれました。
最初の電話があった時点で
「やっぱり大好きだった女性は忘れられない」 と。
「良い子そうだと思った元妻も、すれ違い始めてしまったら 耐えられない存在でしかない」 と。
「喧嘩しても会いたいと思った愛子を今になって思い出した」 と。
「後悔している」 と。
愛子ちゃん。
彼にそれを言われて、
その上で会いに行ったの?
そして、それを私に話してどうするの?
「パパの事は決して裏切りません」
そう。
でももし私が旦那さまの立場だったら
そんな風に言われた相手とあっているなんて知ったら
嫉妬してしまうと思うけれど。
「肉体関係を持つなんてことは絶対ありませんし
元彼氏だから、友達になっちゃ行けないと言う事はないでしょう」
確かにそうですけど。
そのムキになっている当たりで、私はいけ好きません。
どんなにか好きな相手だったかも知れないけれど
これだけの月日がたっているんだよ。
彼が変わっていないって、保証できる?
元の奥さんに対して
「耐えられない」と感じた彼が
あなたにそうは感じないと保証できる?
一度内緒で会ってしまったところで
ダーリンにはしないほうがいい隠し事が出来ちゃったわね。
そして今、それをただ一度の逢瀬としようと
していないあなたがいるのね。
ダーリンにこれが永遠にばれない事を祈ります。
そして覚えておいてね。
もしあなたがつらい立場に立ったとき、
悪いけれど私はあなたの味方はしないわ。
二回目の約束は 色々、きちんと、先の可能性を考えてから 行ってね。
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