今日子

今日子が「もうすぐ3年になるの」とうれしそうに長門さんを紹介してくれたのは
彼女が仕事を辞める少し前でした。

5歳年下の彼。

自分より年下と言う事を気にして、お付き合いを申し込まれた時は
ずいぶん悩んだと言っていたのに、もう3年も経つのね。
早いわぁ。

全然かっこいい奴じゃないから!!
エンジニアと言う仕事柄のせいか、
彼は服装に全く頓着することなく いつあってもよれよれのジーンズに、
それにしっくりあう、 「きれい」なだけがとりえのTシャツ。
それがしっくり来ちゃうやつなのよ〜。がっかりしないでね。
そんな事を散々言ってから、会わせてくれた長門さんは、
細身で背が高くて、
なかなかどうして素敵な男性ではありませんか。

確かに、カッコはよれよれ過ぎるほど、よれよれでしたが(笑)

「彼女はね、ボクが6年かかって、やっと見つけた理想の女性なんだ」

恥ずかしげもなく長門さんはそう言って、彼女の方を見ます。
いいなあ。かっこいいなあ。
男の人って、心で思っていても、なかなか人前でこう言う事
言ってくれませんものね。
「全然カッコ良くないから〜」は謙遜だったのかしら?
と思える程 長門さんは素敵な人でした。

初対面の方とは、始めはやはり事故紹介っぽい会話になりますね。
家族の事や、お仕事の事を聞いて、
何気なく ご自宅はどちらですか?と言う話になりました。
私達が大体の住所を話すと、意外や意外、
長門さんは うちの近所の雑貨屋さんの息子さんではありませんか。

あの雑貨屋さんならご主人も奥様も、お顔存じ上げてるわ〜 と言う事で、
私達はあっという間に仲良くなったのでした。
今日子と共に、長門さんのご自宅でバーベキューなんてお誘いもあると、
ふと気が付くのは、 さりげなく奥様から聞かされるのは、
ご両親は今日子の事を気に入っていないと言う事でした。

今日子の方が年上というのも原因の一つのようでしたが
それより、ちゃきちゃきと竹を割ったようなはっきりとした性格の彼女が、
ご両親にとっては「息子には強すぎる」娘さんじゃないかと
心配されているようです。

将来の話も、子供の話もする二人に結婚の2文字が出ないのは
二人がまだ若いからだろうと私は思っていたのですが、
問題はどうやらそれだけではないようです。

+++++++++++++++++++++++++++++++++

そんな中、彼女は長門さんと一緒だった会社をリストラされてしまいます。
運良く1ヶ月後には新しい就職先が決まったのですが
今までと畑の違う保険会社の仕事は、思ったより大変らしく
週末さえも、なにやら専門分野の試験勉強に励む彼女。
二人はゆっくり会う事もままなりません。

普通のOLから、秘書と言う立場に変わった彼女は
次第に服装も変わって行き、長門さんは不安で仕様がなかったようです。

まあ、ジーンズで出かけて、制服に着替えれば良い中小企業から
私服でそのままお仕事の秘書に変わったのですから
そんなに気にする事でもないとは思いましたが
しょげてる長門さんをみかねたダーリンが
「今度の休みにスーツを買いに行こう」 と提案しました。

成人式以来着た事がないと言う長門さんのスーツ姿は
それは、ちょっとは、借りてきた猫みたいでしたが(笑)
身長もありますし、見違えるようです。

早速それを着て、今日子に会う長門さん。
彼女の驚く姿に、照れまくりの長門さんです。
(って、一緒について行った私達、かなり野次馬です 笑)

今日子も、驚きのあとは「なに似合わないカッコしちゃって」
と言いながらもまんざらではないようで、
二人はなんともラブラブモードで、「お先に〜」と帰ってしまったのでした。

若いって、かわいいわ〜と、
残された私達は おしゃべりのせいですっかり冷めてしまったコーヒーを おかわりして、
「結婚は時間の問題かしら?」などと 話し合っていたのでした。

そんな今日子の再就職から1年。
最近、二人とあってないな〜などと思いついた私は
今日子に連絡を取ってみました。
「長門さんは元気?」
私が当たり前のようにそういうと、 彼女は、あ〜…と言葉を濁してから、
一言「別れたわ」と言います。

どうして?

「色々とね」

多くを語ろうとしない彼女に、私は深く追求する事は出来ません。
今日子がいないとなると、私は長門さんにも連絡しづらく そのまま、
しばらく時間がたってしまったのですが
ある日、偶然にもデパートで長門さんに声をかけられました。

久しぶりの近況報告がてら、近くの喫茶店に腰を下ろす私達。
話しは自然と今日子のことへと変わって行きました。
「今日子から、別れたって聞いたわ」

やっぱり、知ってた? 

そう言って照れくさそうに笑う長門さん。
「かっこいいキャリアウーマンに変わっちゃったお姉さんは やっぱり手におえなかったか」
私がおどけてそう言うと、 彼は困ったような顔をして、
なにも言ってくれません。
二人でいて、会話が続かないと言うのは、なんとも居心地の悪いものです。

私はそれに絶えられなくて、野次馬根性なんだけど、
と前置きしてから 別れた理由はなんだったのか、尋ねて見ました。

+++++++++++++++++++++++++++++++++

「彼女にさ、保険勧められたんだよね」

でも、彼女はセールスじゃないでしょう?

「うん。でもオレ今までなんにも入ってなかったから。
一つくらい入っておいても良いだろうって事でさ。会社のを 勧められたんだ」

…うちもはいってないんだけどなあ。
やっぱり危険かなあなどと わき道にそれた事を考えてしまった私。

「で、OKして、その手続きを彼女に全部任せたら、
「終わった」 の一言だけで、なんにも見せてくれないんだ」

そんなの見せてくれって言えば良いじゃないと笑って言ったのだけれど
話しはどうやらそんなに簡単じゃないみたい。
そう言う書類関係に疎い彼は、書類の確認なんて思いもつかなかったそう。
その話だけ聞いていたご両親に、
書類の事を聞かれて 始めて気が付いたそうだ。

書類の事は頼んだものの、会うたびに忘れてきてしまう彼女に
ご両親の方が業を煮やして、他の知り合いから書類を取り寄せてもらうと、
それは、保険金の受け取りから、連絡先の住所や電話番号までが
彼女名義の物だったそうです。

確かに、聞こえの良い話じゃないわね。
事前にそう言う話もなかったみたいだし、それはやっぱり 彼女が悪いかなあ。

「実を言うと、オレ的には、受け取りは今日子でも親でもどっちでも良かったんだ。
でも、彼女に隠されてた訳じゃない? 裏表のないさっぱりした性格が好きだったからさ。
それがそれが引っかかっちゃって、だんだんギクシャクしてきちゃってさ。
結局わかれる事にしたんだ」

保険の方はご両親が大変ご立腹で名義変更したそうです。

「彼女の気持ちは聞いて見たの?」
…少し困ったような顔をする長門さんは、
ん〜。色々あせったりとか??してたみたいだな。
と言っておりましたが…。

彼女の気持ちをわかってあげられなかったの?
それともわかってあげたけれど、許せる所まで行けなかったの?
お似合いの二人だと思っていたのに。

話し合ってもうまく行かなかったってことは、結局は
それまでのご縁だったって事なのかなあ。

…後日、今日子とも一緒に食事をしました。
この間、長門さんに偶然あったのよ、と話したら、
彼女は目を伏せたまま 笑っています。

「色々、聞いた?」

「うん。聞いた。…なんで、あんなことしたの?」

はっきりとは言わないけれど、やっぱり私は
「それはあなたが悪い」と思っているわ。

「なんか、魔が差しちゃったのかなあ」
彼女はため息交じりにそう言います。

今日子もばかだなあ。
年が上だろうと、ご両親が反対してようと
長門さんの気持ちは今日子の所にあったのに。

長門さんも、ばかだなあ。
どんなに思っていようと、言葉に出してもらわなきゃ安心できないってこと、 あるのに。
二人が別れちゃったことをとても残念に思う私は、
そんな風に思うのですよ。

 

 

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