「ちょっと巧、しばらく見ないうちにすっかりおばさんじゃない!
髪の手入れちゃんとしてる?」  

久しぶりに会った友人に、そんな辛辣な言葉を向ける気の置けない友達。

「まあ、ね。生活背負って主婦してますから。でも体力は前よりあるよ。
毎日この子達追い掛け回してるからね」

そう言って、テーブルの脇を抜けて走り回っている子供たちを目で追います。

「そっちこそ太ったんじゃないの? ベルトの上になんかのってるよ」
私は見なくてもわかると言いたいがため、
わざとコーヒーを口に運びながら そう言いました。
「なあんて、失礼な!」
怒ったような様子を見せたのは一瞬で、
すぐにひとなつこい笑顔を見せる海(カイ)です。

「やっぱりお腹から。太るのは」
そう言ってお腹が良く見える様にネクタイを持ち上げてひらひらさせます。
本当に、ベルトの上にお肉がどっかりのってる。
「何よ。自分だってすっかりオジさんじゃない。」
「ふっふっふ。オジさんにはオジさんの色気と言うものがあるのだ!
オバさんなんてただの疲れた中年でしょ。色気も何もあったもんじゃない」

海は私達の結婚当初からの友達です。
落ちたらどうしようと思えるような大きなひとみを隠す様に
銀で縁取られた眼鏡をかけ(実際彼は目が悪いんだけど^^);
口とあごにはきれいに手入れされたひげを蓄えている。
そして好んで着る黒のスーツは平均よりずっと高めの身長に良く似合っていて、
かっこいい、カッコ良くないは趣味の問題としても
すごく雰囲気がある彼は 少なからず通りすがりの人を振り向かせます。

ダーリンの以前の同僚であった海と私を含めてのお付き合いが始まったのは
週末の植木市に誘われてからでした。
「ミントは放っておいても勝手に育つから。」
「唐辛子はかわいいよね。自分で育てるのはそんなに辛くないから
食事の色合いに沿えるのに、持って来い」
ベランダでハーブを育てたいと言う私に
ガーデニングが趣味なのだと、色々教えてくれたのです。

それ以降会社の行事等で何度と無く顔を合わせる事になるのですが
半年も経った頃、海は他の会社にヘッドハンティングされ、
ダーリンのいた会社を辞めることになりました。
お別れ会だねと、三人で最初に行ったイタリア料理の店に 食事に行きました。
食事も終わって、ほろ酔い気分でコーヒーを頂く私達。
「お腹いっぱい」と言ったばかりなのに、
私と海はケーキを追加で注文し、ダーリンにあきれられます。

辛党の彼には、「甘いものは別腹」と言う感覚が理解できないよう(笑)

ふと、会話が途切れたとき 海が言いました。
「もう、これで会う事は無くなると思うから、聞いてもらいたいことが あるんだけど…」
酔った勢いもあって、
「そんな事ないよー」
「外で会えるじゃん」
などとケラケラ笑いながらその海の言葉を受け止めると
海は困った様に笑っています。

「なあに?言ってみ〜」
わざと子供を諭す様ないい方をする私。

「僕さ、大事な人がいるんだよね。その人は男でさ。
僕はその人と付き合っている。 つまり、僕はゲイなんだ」
早口に彼はそう言いました。
ケーキをいじっていた手が止まります。
なんと答えてよいかわからず、思わずダーリンの方に目をやってしまいました。
それはダーリンも同じだった様で、同じように私を見つめ返します。

「あ〜、困っちゃうよね。こんな事聞かされても。ごめんね。
だから、もう会う事は無くなるって言ったでしょ。」
「あ、いや、そんな事はないけれど…」
突然の出来事で、しどろもどろにそう言うのがやっとでした。

世間に同性愛者がいることは知っていましたが
そう言う人を目の当たりにしたのは始めてだったんですもの。

「本当に、聞いてくれてありがとう。 親にも友達にも誰にも言えないでいると、
どうしても誰かに 聞いてもらいたい時があるんだよね」
海はそう言って、また一口ケーキを口に運びました。

その日は、そのまま海とわかれました。

おせっかいな私は
「そんなことないよ。これからもお友達でいよう」 なんて言いそうになったのですが。
もともと親しいのはダーリンの方。
それにこう言う問題は、同じ男であるダーリンの方が敏感ですものね。
返事はそちらに任せる事にしたのです。

「ま、世の中いろんなのがいるからな」
そう言って海にタバコを差し出し、自分も一本取り出します。
そのまま取り留めのない話を始めることで、
ダーリンは海とのこれからの関係を拒絶したのでした。
もちろんお互いの携帯番号を知ってはいましたが、
そのまま連絡をとることはありません。

3ヶ月ほど経ったある日、友達の誕生日を祝うカラオケボックスで
私たちは偶然海に会いました。
この人が…と言って、隣にいるまじめな公務員さんのような
修一を紹介してくれます。(実際彼は公務員さんでした(^_^o)
「嫌じゃなかったら、一緒にお祝いしてくれませんか?」
事情を何も知らない友達が二人だけで来ている海と修一をパーティに誘います。

成り行き、私たちも海たちに同席を求め、
勢い私たちは二人と合流することになったのですが、
二人のおじさん(どう見たって二人ともアンちゃんには見えませんもの)が
完璧な振り付けと共に歌うピンクレディーのなんとおかしい事!
時間を忘れて朝まで遊んでしまったそのパーティ以来、
自然と私たちは連絡を取り合うようになり、 連絡をとっては遊びに行くようになりました。

とってもタフな二人は夜の遊びにも、昼間のイベントにも長けていて
一緒にいて飽きないのでした。
でも修一は来たり来なかったり。
三回に一回は約束の場所に現われません。
理由は、海とのけんか。
目の当たりにしたことはないけれど、二人のけんかは派手なようです。

「また、けんか?」 いいかげん慣れてしまって、
修一が来なくてもさほど 心配もしなくなっていた私たち。
所詮はホレタハレタでくっついたり離れたり出来る恋人同士と、
五つも年上の彼らをすっかり子供扱いして、
けんかをするたびに今度こそ別れるのかな?と思っていた私たちでした。

ですから、そののち三年ほどの間、
私たちが子供の世話に追われて夜遊びからも遠ざかり、
海たちとも顔を会わせなかった後、
久しぶりに連絡をとった海にまだ修一と一緒にいると聞いた時は、
少なからず驚いたものです。

久しぶりに待ち合わせた海の後ろで恥ずかしそうに微笑んでいる修一。
子供嫌いの海と違って、修一は慈しむように子供たちを眺め、
かいがいしく世話を焼きます。
その世話の焼きようったら
…私より育児に向いてそう。

子供たちが食べることに夢中になり始めた辺りで、
私たちは4人でまた馬鹿な話を始めました。
相変わらずお金使いの荒い海。
公務員人生、もうすぐ20年の修一。
新しい物好きのサラリーマンダーリン。
そして専業主婦の私。

一見何の接点もない私たちですが、
接点がないと言うのはそれだけ話題のバリエーションもあると言うこと。
お互いに興味があれば十分に話は盛り上がります。

「また仕事変わったんだって?」

「何社目よ(笑)」

「ボーナスもらえんの?」

「現物支給」

「X−BOXなんていいなあ。HARO突きで(笑)」

「そんなん、もらえるわけがないじゃん。 いつだって一年ももたないでやめちゃうんだから」

「でも、給料は上がってるだろ」

「で、それ何に使ってるんだよ」

取り止めのない話で盛り上がっていたはずなのに、
いつのまにか二人はまた言い合い。

「おまえにだって、デジカメ買ってやったじゃんか!
それを封も開けないうちから甥っ子にやっちまって」

「僕には興味のないものだもの。
欲しがってた甥っ子にもらわれたほうが使ってもらえていいだろ。
それに俺は欲しいなんて言ってない」

「おまえに養ってもらってるわけじゃなし、何に使っても関係ないだろ」

修一は海の仕事が長続きしないこと。お金使いが荒いことが気に入らない。
海は“女のように”修一がなんだかんだと言うのがうるさくて仕方がない。

「…飽きないのねえ。けんかの内容、三年前と全然変わってないじゃない」

私があきれたようにそう言うと、二人はそろって

「だって、いくら言ってもこいつが聞かないんだもの」

ダーリンが持っていたコーヒーをこぼしそうになりながら笑います。

「じゃあさ、お互い進歩も無いようだし、一緒にいたらうざったいし、
別れちゃえばあ?」

私も笑いながらそんなことを言いました。

お互いにお互いを見る海と修一。
「そう言う話も出ることは出るんだけどなあ。」
「…ねえ。」

「って言っても、面白い面白くないで会社辞めたり、
衝動買いしたりするこの人、 放って置けないし」

「俺もこいつがうるさく言うから、まあ借金しないで済んでるし」

さっきまではもううんざりって顔をしてたのに、
お互いにそう言ってあきらめたように笑う二人。

「ま、結局、好きで一緒にいるって事よ」

あら、なんて素敵なんでしょう。
夫が浮気をしたり、妻が家庭を顧みなかったり…
夫婦間の不満だって、たくさんあります。
そして彼らはこう言うの。

「結婚した以上、離婚は出来ない」

「世間体がある」

「子供のためを思うと」

結局、離婚するカップルは離婚してしまうもの。
そう言う何らかの「理由」があって離婚できない二人は、
やっぱりまだどこかで引かれあっているから離婚しないのではないかなあ?
だったら、素直に認めてみませんか?

「ま、結局好きで一緒にいるって事よ」

そうすればお互いの何かが変わるかもしれません。 不
満だらけの日常がちょっと明るくなるかもしれない。
かなり特別な二人ではあるけれど、そんな風に思わせてくれた海と修一に、
私はやっぱりこう言いたい。

「いつまでも、お幸せに」

でもさ、その後私は聞いたの。

「最近はどこに遊びに行ってるの?」

海の答えは、
「最近すっかり面倒くさくてさ。ここばっかりだよな」
と指差したものは…。

ラブホのライター!

そりゃあね、あなたたちは恋人同士なんですから。 不思議ではない。のだけれど…
でもそうはっきり示されると、 ちょっとひいてしまう巧なのでありました(笑)

 

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