知子

夫婦にとっての「一番良い関係」っていったい何時なのでしょう?
結婚したて?
いわゆる新婚ホヤホヤの時?
それとも、子供もみんな成長してやっと二人だけの時間を取り戻せた
中高年と呼ばれる時代になってから?

…って言うか、そう言うものが、
存在するのかなあなんて思う人のほうが、 多いのかも知れません。

智子は短大を出て、二年保母の仕事をした後 22歳で結婚しました。
まだ学生だった私の所に、 寿マークの輝くように白い封筒が届いたときは
驚きもしましたが、 ものめずらしさにはしゃいだ気分のほうが
大きかったような気がします。
緊張しながら、返信用のはがきを書いていると
高校時代の彼女の姿が浮かび上がってきました。
そう言えば「20代で子供の小学校の入学式に出たい」と 言っていたっけ。
〜実現するかもね〜。

まだまだ寿貧乏なんて言葉は縁遠かったこの頃、
始めて出席した披露宴はちょっとした同窓会であり、 盛大なパーティであり、
コンパと変わらない大騒ぎの二次会であり、
とても楽しいイベントだったと、今でも良い思い出です。

その後、大学卒業した私が田舎に帰らなかったこともあり、
彼女とは年賀状のやり取りだけの関係が2,3年続いたのですが
ある時、私が休暇を取って実家へ戻った時
近くのスーパーで偶然彼女に会ったのです。
以前より少し太ったかなと言う印象は受けましたが
相変わらずの幼顔にクルクルっとしたねこっ毛。 以前とほとんど変わりません。
変わっていたのは、その足元と腕の中に かわいい子犬…じゃなかった、
女の子を連れているところくらい。

話は一気に盛り上がり、 彼女のうちへお邪魔してゆっくり話そうと言うことになりました。
二次の母になったということは聞いていたけれど
私の知っている彼女は学生の頃のまま。
こうして子供たちを目の当たりにして、始めて実感が沸きます。
ハネムーンベビーだと言う上の子は3歳,下の子は10ヶ月とのこと。

「じゃあ,20代で小学校の入学式出られるね」
学生の頃の言葉を忘れていなかった私は、 彼女にそう言いました。
「そうなの!それに、わたし学年で一番若いお母さんなのね!」

学生の頃、20代のうちに子どもの小学校の入学式に出たいと話していた
彼女はそう、とてもうれしそうです。
立て続けに上の子の幼稚園の様子のことや 下の子の健康状態、
そして自分の仕事の事などを話してくれました。
それにしても、彼女はなんとも忙しい。

私にお茶を出しながら、散らかっているおもちゃを片付け、
私がお茶をいただいてるその脇で下の子のオムツを変え(…)、
挨拶に顔を出したお母様に
「もうすぐ夕食なんだから、お菓子をあげないでよ、もう!」 と文句を言いながら、
私には、 「(子供が)汚い言葉を覚えると、
お義母さんにぜったいこっちで覚えて来たって言われるの!」
「パパはね,毎年一人で海外旅行行っちゃうのよ、 信じらんないでしょう!」
といかにも既婚者たる愚痴をこぼし、
何の躊躇もなく私の前で胸をさらけ出し、(その行動に度肝を向かれる私)
下の子に母乳を与え始めるのです。
確かに修学旅行では一緒にお風呂に入った仲ですけどねえ。

そんな彼女の忙しさに、 私は一緒におしゃべりをしているにもかかわらず
「智子の生活空間」と言う場所に紛れ込んだ
透明人間になったような気がしたまま、 彼女に別れを告げ、実家へと戻りました。

智子とは、その時会っただけで、 また年賀状だけの関係が2,3年続いたのですが
最近またふとしたことで、彼女の家に遊びに行くことになりました。
すっかり大きくなった子供と一緒に、ちょっと無理したんだと言う、
新築のマイホームを背に智子は私を迎えてくれました。
大きな玄関を中間に、同じ作りが左右に並ぶ二世帯住居は
その隅々にまでこだわって作ったことが素人の私にでさえ伺えます。
共同の居間でくつろいでいらっしゃるご主人のご両親に挨拶をして、
若夫婦専用の居間に落ち着きました。
彼女とは途切れ途切れとはいえ、もう20年以上の付き合いです。
お互い気心も知れている彼女になんの遠慮がありましょう。
私は気がついたことを素直に口に出してみました。

「色々大変じゃない?同居って。」

ストレートに聞いてしまう,気になる疑問。

うーん、と考えるようにしてから、
「ま、国際結婚でなくても結婚と言うのは、十分文化の交流だわ」
おどけるようにそう言う智子。

「うち民宿やってるじゃない?だから小さい頃から湯沸しでお湯が出て、
トイレも水洗だったの。それがお嫁に来て、
「今日からお風呂はあんたがやってね」 って渡されたのは、チャッカマンと木片。
びっくりした。
薪で焚くお風呂なんてそれまで入った事なかったもの。」

「会社に「汲み取りが来るからちょっと帰ってきて」って連絡があって、
何かと思って慌てて帰ったら、トイレ掃除よトイレ掃除。
中のものを汲み取ってもらうときに水で流しながら
掃除しないときれいにならないって。
トイレとお風呂だけでも十分カルチャーショックだったぁ。」

「子どもたちを姑にお願いするときは十分作戦練ってからね。
言い方を間違うと態度が全然違うもの。
手放しで出かけられる時と、

「今日はあの一言が余計だったぁ」なんて時、両方あるな。」

そんなふうに智子は同居の様子を面白おかしく話してくれました。

「昔はね,色々あったわよ。でもね,ここ新しくしてからはそうでもない。
この家はパパと私で建てたの。この家の主は私。
そう思うようになったら、大概のことは何でも許せるようになったわ。」

久しぶりに会った彼女は、ここ何年かで、
すっかり落ち着いた様子を見せていて 少なからず私を驚かせたのですが、
その貫禄は、外見だけじゃなく、内側からにじみ出ているもののようで、
二重に私を驚かせました。
仕事のこと,家族のこと、子供のこと。そしてもちろん夫婦のこと。

すっかり大きくなって聞き分けがよくなったお子ちゃま達の
ままごとの音をBGMに 私達は湯のみで手を温めながら、
思いっきりおしゃべりを楽しみました。

彼女は言います。

「パパが好きで好きで、出会って半年で結婚したのね。
だからパパの知らない事、沢山あって喧嘩ばかりしてた。
結婚したてが一番つらかったかな?
でもやっと最近何でも分り合えるの。いいところも悪いところも。
だから今が一番いい関係。」

彼女はにっこり笑っています。

私は付き合って5年、10年なんてカップルも知っているけれど
智子みたいに「パパ好き〜」ってオーラ出してる人見たことないよ。
あなたがそのオーラを出している限り、
あなた達は何時までも「今が一番いい関係」。

ちょっとうらやましくて、悔しかったのかな?
心の中だけでそう言う私。

お茶っ葉を入れ替えながら,智子はちょっと膨れ面をします。
「そう言えばさ。最近チイ(長女)のクラスに転校生が来たの。
それがね!その子のママ、元ヤンキーで出来ちゃった結婚で、
私より4っつも若いのよ!今までずっと私が一番若いママだったのに!」

…はいはいはいはい。

「じゃあ,今度は,クラスで一番ラブラブのママ目指してみたら?」

 

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