国際結婚IN台湾

ここだけの話だが、うちの爺婆の喧嘩は派手だ。
(いや、近所はみな知っている事だが)

二人がつばを飛ばしあう勢いで叫び出すと、
太郎はもちろん、 さすがの次郎もフリーズする。
そんなとき二人は思いっきり台湾語なので
何を言っているかはっきりとは わからないが、そこは長い付き合いだ。
それまでの流れからして、 爺の洗った茶碗にまだ汚れがついていただとか、
部屋を出るときクーラーを消し忘れたとか、
そんな婆のお小言から喧嘩は始まっている。

喧嘩の後はさすがの次郎でさえ、こっそり耳元で
「…ばあがオニになるぞ」
とささやいてやると大抵おとなしくなるので私は大変助かる。

パパに言わせるとそれでも今はおとなしくなった方だと言う。
以前は力で勝てない婆が包丁を持って追いかけ、 爺はよくお風呂場に立てこもったそうだ。

あはは!と笑って聞いていたが
結婚前「前住んでいた家」を紹介されたとき、
お風呂の扉に沢山の傷跡があったのでなんだと聞いたら
喧嘩してお風呂から出てこない親父に業を煮やしたおふくろが
包丁を付きたてた後と聞いて、
あの話は冗談じゃなかったのかとたいそう驚いた。

今にして思えば、そんな激しい姑のいるうちによく嫁に来たもんだ。
惚れた腫れたと言っている人間はどうも思考回路が普通じゃないらしい。

そんな爺と婆、内訳を話すと爺は本省人、婆は外省人である。
これが実は珍しいカップルなのだよ。

本省人とは500年(だったと思う)位前、
まだまだ未開発だった台湾に福建省から移住してきた人の子孫。
外省人とは第二次世界大戦直後、
中国国民党関係で台湾にやってきた中国人たちの子孫である。

そんな区別はどうでも良いんじゃないの?と思うのは 私達ガイコク人の感覚であって、
その区別は今でもはっきり話題に登るほどなのである。

 

もちろんただ見ただけでは本省人や外省人どころか
日本人も韓国人も皆一緒だ(少なくとも私はそうだ)。
でも 本省人は日頃、台湾語(正確には福建語)を話し、
北京語を話しても台湾訛りな(台湾国語と呼ばれる)フラットな感じの北京語だ。

結構な爺様婆様は日本統治時代の名残で日本語は出来ても北京語は出来ない。
うちの爺の兄貴、上から3番目までは私と日本語で話すんだよ。
だって北京語できないし。
私台湾語出来ないし。

外省人は巻舌のきれいな北京語を話すので、これまた言われなくても大体わかる。
話はそれるが、台湾語のスラングでは、
本省人をサツマイモ(ハンチー)、 外省人をタロイモ(オーイー)と言う。
なんでも大丈夫だぁ♪で済ませてしまう本省人が柔らかいサツマイモ、
頑固で融通が利かない外省人が固いタロイモなのだ。

パパなんかは「ったくオメ〜は“オーイー”だからよ〜」なんて口も聞くが、
ま、これはスラングなので悪い意味あいが強いの。
知り合った台湾人とそう言う話になっても気軽に
「あ、サツマイモですね♪」なんて言うのは控えましょう。
受けるときは「よく知ってるねえ!」になりますが、
冗談の通じない人だと雰囲気は最悪です(笑)

それじゃあ、恋する二人に本省人外省人の壁はあるのだろうか?
今となっては、うちの近所でも、息子娘が結婚したいと
日本人、アメリカ人、 スェーデン人、アフリカ人(!)を連れてくる時代です。
そんな物は、風の前の塵です。

じゃあ、爺婆たちの時代は??
彼らの話によると、今ではそれなりに経済発展国のように言われている 台湾ですけれど、
第二次世界大戦あたりの、中国の台湾に対するイメージは
「性のことで頭がいっぱいの野蛮な島」でしかなかったとか。

細かい歴史的記述はここでは重要ではないのではしょりますが、
その頃の一般的(表面的とも言うか)なイメージと言うのは
「軍隊などと言うものと一緒にやってきた先進的な外省人」と
「野蛮人、おサル本省人」でありました。

ちゅう訳で、兵隊さんちの息子が、かわいい惚れたで、
隣のおサル娘を嫁にもらう事はあっても、
おサル息子が兵隊の娘を嫁にもらいたいと言っても、門前払いがいいところ。

例えお互いの気持ちが通じ合っても親に反対される事は 100%なのでありました。
そんな中、爺(本省人=おサル)と婆(外省人=兵隊娘)は晴れて結婚したのだ。
私が爺(本省人)と婆(外省人)のカップルは珍しいと言ったわけが
ご理解頂けたであろうか?

今では顔を合わせれば喧嘩ばかりしている二人だけれど、
実は結構大恋愛だったのかもしれないなあ…と思うと 私は思わずグヒヒと笑いたくなる。

 

映画大好きで学校サボって映画館に通っていた爺は
「だったらここで働け」 と映画館のオーナーに拾われ、
その隣のデパートで今で言う「デパガ」だった婆。
おお!なんとトレンディな二人であろうか?!

そして当時の爺は、ジュースバーでパイナップルジュース
を販売している婆を映画に誘うのだ。
それもジュースを買うついでに。
ああ、なんとワザとらしい。
その頃、爺はパイナップル好きだったのだろうか?
今は、口がヒリヒリすると言って 食べないんだけどねえ(笑)

当然二人の結婚は、婆のお父上の反対に合うのだけれど、
最終的に二人は結婚できたわけだし、
婆家の長女と三女はアメリカ人に嫁いでいる。
その頃の風潮とは別に、婆のお父上はなかなか結構、 話のわかる人だったのかもしれない。
とは言え反対にあっていたとき、婆はお父上に、
「アノ事しか頭にない本省人なんて、年取ったら捨てられるだけだ!やめておけ!!」
と言われたそうな。

ちなみに私が台湾に嫁に行きたいと行った時、
父親は「パスポートを騙し取られて、海に捨てられるだけだ。許さん!」と言われた。
(今では笑い話ですが、実話なのです)

ああ、因果は巡る。
太郎次郎と結婚したいと言う娘さんは親御さんになんと言われる事だろう。
ここは一発逆転、
「あそこのうちの息子さんにもらってもらえるなら、願ってもない」
なんて言われたいものなのだが。

おおっと話はそれた。
結婚前の話を1度爺に聞いたことがあるが、
「北京語がきれいで、台湾語なんか全然わかんねえ田舎っ子でなあ」 などとおっしゃっていた。
にやけているあたり、
いまでもあの頃の婆は爺にとって かわいいおぼこであるらしい。

しか〜し!
かわいいおぼこも子供を二人産んで、40年近くも寄り添えば嫌でも貫禄は付く。
今ではすっかり本省人に間違えられるほど台湾語も上達しており
(ああ、環境って恐ろしい)
売り言葉に買い言葉の爺との喧嘩では、
爺より流暢にバカだのアホだの、 よくそれだけ立て続けに言えるもんだと言うほど叫んでいる。

たろじろの教育? そんな物はとっくにあきらめました。
私がどうやってその喧嘩止められるの?
そうだ、ここは台湾だ。
「いじめるよりはいじめられる方が良い」なんて考えはここにはない。

いじめろとは教えなくとも
「やられたらやり返せ」じゃなきゃここではやっていけないのだ。
とりあえず口喧嘩と言う物は、爺婆を見ていると
道理はともかく、 相手より、いかにより大きく長くまくし立てられるかに、
勝算の半分はかかっているようだ。
だとしたらこの先、口が回らなくて、先に手が出てしまうなんて事がないように…。

息子たちよ。爺と婆からちゃんと口喧嘩のし方を学び取るのだよ。

私といえば、ここに40年もいると(子供も二人生んだ事だし)
私もああなるのかと思うとため息が出る。
大和撫子魂は、すでにどこかに落としてきてしまった感がある。
早く探して拾いに行かなければ…。

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