MAALULA
◆古代アラム語がつかわれている村
砂漠の道をダマスカスへ。とちゅう、砂漠のなかのみやげもの屋で休憩。素朴な動物の置物があり、カミさんがほしがったが、ドルでは買えなかった。
店をでると、砂利のうえにヘビがいた。頭を砕かれている。1cmほどの細さだが、長さは80cmほどもある。杉あやのような白黒の繊細な模様。無造作な放置のしかたからみて、毒はなさそうだ。
長い砂漠の道がつきて、アンチ・レバノン山脈が近づいてきた。山に分けいる。ダマスカスの北東60km。マルーラ村が、石灰岩の山肌にしがみついている。
パウロによってキリスト教に改心した少女タクラが、父親に追われ、岩山にはばまれた。そのとき、山が割れて、のがれることができた。それがこの谷だという。
村の入口で、金色のまつげの目の大きな少年が、バスにのりこんできて、運転席のそばで歌いはじめた。ほとんど旋律のない、アラム語の古い歌。この村では、いまだに古代のアラム語がつかわれているという。
アラム語は、アラブ語に先行するセム族の言語。イエス・キリスト時代のユダヤ人もつかっていた。ナバテア語もパルミラ語も、この語の系統だという。
岩山に抱きすくめられたような、聖タクラ修道院にはいる。伝説の少女をたたえて建てられた、ギリシア正教の修道院だ。細密なイコンが飾られた礼拝堂で、若い女性が唱えるアラム語のお祈りを聞いた。肺からいっきょに息を吐きだして発音する、H音の多い言葉。「ヴェツレヘム」という語が聞こえた。
DAMASCUS
◆はじめて殺人がおこなわれた山
ダマスカス。ローマの支配が700年もつづいたあと、
636年、ウマイヤ朝がここに都をおいた。
街に近づくと、みぎての山を指して、ガイドがいった。
「はじめて殺人がおこなわれた山です」
旧約聖書の話だ。カシオン山。この山で、アダムとイブの息子カインは、弟アベルを殺した。
「アベルは羊を牧う者カインは土を耕す者なりき」
兄弟の対立。農業と牧畜の対立。いまも争いはつづく。
第1時世界大戦のとき、アラビア半島におこったアラブ解放軍は、メッカのカリフやアラビアのロレンスに率いられ、ダマスカスをめざした。やがてカリフの息子ファイサルが国王となる。いまはアサド大統領をいただく社会主義国の首都だ。
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