JERASH
◆ローマ都市ジェラシュ
アンマン北郊、難民の町を通る。ヨルダンの人口のうち30%が、パレスチナからの難民だそうだ。
アンマンから北へ、ヤボク川を越えて、バスで1時間。旧約聖書にもでてくるギレアデ山地にはいる。このゆたかな山地には、紀元前10世紀には、すでに人が住んでいたという。
10時、ジェラシュについた。ヘレニズム時代から名が知らた、ギレアデを代表する古代都市の1つ。古名はゲラサ(黄金の川)。
アンマン(大いなる川)にしても、マダバ(水の多い流れ)にしても、このあたりの都市の名は、川や水にちなんだものが多い。いかに水が大切だったか。
門前町のような通りをぬけると、凱旋門がある。門をはいると、ひだりに収容人員1万人の大競技場がある。
まっすぐの道を、さらに200m、ようやく南門に達する。この道を、アラブ服を身にまとった風采のいい男が2人、手をつないでゆったりと話しながら、行ったり来たりしていた。この旅では、男同士が手をつないでいるのを、なんども見かけた。
南門をはいると、イオニア式の円柱にかこまれた、楕円形の広場フォーラムがある。80m×90m。広場を見おろして、ゼウス神殿がある。そのおくに、南劇場がある。
フォーラムから北へ、列柱道路(カルド)がのびている。ひだりにニンファエウム(泉)・アルテミス神殿・北劇場がつづき、みぎに西浴場・テトラピロン(4面門)がつづく。街がつきたところが北門だ。南門から北門まで、1kmほどある。
いかにもローマ的な要素がそろっている。キリスト教によって余命をたもったローマらしく、これらの建物群に、いくつもの教会がつけ加えられている。
ジェラシュについてではないが、砂漠地帯に散在するローマ建築について、ロレンスはいう。
「こうした不釣合いの建物を造ったのは造営者の頭を疑いたくなる」(前出『知恵の七柱』第2巻第108章)
いかにも強圧的なローマ遺跡にたいする反感は、ぼくにもある。ただし、はじめて見た楕円形の広場フォーラムは、印象的だった。
アルテミス神殿では、ガイドが石柱の根もとにコインをはさんで、柱の揺れでコインが動くのを見せてくれた。石柱と柱石の接合点の遊びが、揺れを吸収する耐震構造になっているのだそうだ。石の文化にも遊びの発想があることに、新鮮な思いがした。
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