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イラン紀行 ペルシアの火と土と水と風 2002年10月〜11月
10日目

113

◆日曜日

 

テヘラン

シラーズへTEHRAN

テヘラン考古学博物館の展示品

イラン最後の日。テヘラン考古学博物館へ。

まず、テペ・シャルクやスサからでた、彩文土器が目についた。白っぽい地にシカやトリが 描かれている。農耕黎明期の土器だ。

テペ・シャルクとスサは、ザグロス山脈の東と西にわかれているのに、様式が共通している。この彩文土器は、はるか東につたわって、中国の彩陶になったといわれる。

もちろんペルセポリスの遺物がある。アパダナ宮殿をかざっていたという、ダリウス1世の謁見の図のレリーフ。玉座に腰かけて、ダリウス1世が拝礼を受けている。その背後にクセルクセス1世。石に彫られた厳粛な情景が、まるで金属のように黒光りしている。とくに髪や鬚の細密な描写は、アッシリアのきびしい鑿づかいを思わせる。

エジプトから贈られた彫像がある。バビロニアを占領したエラム王が、スサにもって帰ったという、石に刻んだハンムラビ法典がある。

牡牛の柱頭をいただく黒い石柱を見て、美術全集で見た灰色大理石の牡牛の柱頭を思いだした。いまはパリのルーブル博物館にある。例によって、ここにあるべき傑作の数々は、欧米にもち去られている。

博物館のちかくで食事をした。街は北から南への斜面にあり、道の端を幅3mほどの川が勢いよく流れている。

レストランをでるとき、入口におかれた雑誌に、現地ガイドのMさんの写真が載っているのを、めざとくカミさんが見つけた。グラフィック・アーティストと紹介されている。Mさんに確かめると、はにかんで自分だと認めた。彼はガイドで稼ぎながら、がんばっているらしい。

 

宝石博物館

イラン・メリー銀行よこての通用門をはいり地下におりると、鉄格子のシャッターつきの、金庫のように頑丈な部屋がある。見学者がなかにはいると、シャッターが閉まる。シャッターが開いているときでも、なかで見学者が不審な行動をとると、すかさずシャッターは閉まる。なかには、金銀財宝がザックザク。まさに「ひらけゴマ!」の世界だ。

革命と宝石

食事のあと、イラン・メリー銀行へ。

ここに宝石博物館がある。革命のときに没収された、パフラヴィー王朝の財宝が、地下金庫に保管されている。1階で厳重なボディ・チェックを受け、階段をおりた。観音びらきの鉄格子のシャッターをはいる。

入口の小部屋に、無数の宝石をちりばめた、大型ベッドのごとき玉座があった。カジャール朝の第2代シャーが、インドから分捕ってきたものだという。

大部屋にはいる。王冠・宝刀・首飾り・腕輪‥‥。シンドバッドがなんど航海しても集めきれないほどの、宝石がある。世界一という極大なものまで。稀少価値などという言葉が、気絶してしまいそうな量だ。

ぼくはシッポを巻いて、もっぱら現代のアリババの盗賊は、どんな手をつかうかなどと、空想した。思わず防護ガラスに手をふれてしまう。ビーッ! 警報が鳴りひびいた。犯意をもよおすまでもなく、あきらめて展示室をでて、入口の椅子に腰をおろした。

ビーッ! なかでだれかが、また無駄な犯行を企てたらしい。と、目のまえのシャッターがガチャンと閉まった。なるほど、こういう仕掛けになっていたのか。なかにいる見物人すべてが、閉じこめられた。

警備員のおじさんが、ゆっくり立ちあがって、警備室から巨大なカギをもってきた。本日何度目かの「開け、ゴマ!」。

 
写真
 サーダバード宮殿
かつての支配者、パフラヴィー朝のシャーの宮殿だった建物が博物館となっている。最高級の絨毯があつめられている。
 
 
 
 
 
 
 
 
写真
 テヘランのバザール
イランの赤は鮮やかだ。ザクロの赤。ザクロで染められた絨毯の赤。国花バラの赤。拝火教の火の赤。ラブーという赤カブの漬物の赤。バザールの裸電球の光のなかでも、イランの赤は鮮やかだ。
 
 
コラム
おなじころイラクを旅した作家・池澤夏樹さんは
「ぼくはミサイルを発射する側ではなく、それが到達する側を見てしまった。イラクの人々の顔を見てしまった」と、『イラクの小さな橋を渡って』で書いている。ぼくたちも、ブッシュが悪の枢軸とよぶ、イランの人々の顔を見てしまった。この人たちの土地を、軍需産業の消費地にしてはならない。

「夏の離宮」にテヘランの秋深く

テヘランの街を北にむかう。北にいくほど上層階級が住むという。むかしは別荘地だったとか。

高々とのびた喬木が、渋滞する道路をつつんでいる。スズカケかカエデか。整然とした並木ではない。雑然とならび、むやみに密集している。林のなかに、道をつけたみたいだ。それが、やがて黄ばんだ林となり、サーダバード宮殿についた。

あの宝石をあつめたパフラヴィー朝の、夏の離宮だったという。林間にいくつかの宮殿が点在する。

中心の王宮が博物館になっている。イラン最大といわれる絨毯がある。これはケルマン製、これはマシャド製というふうに、各部屋に最高級の絨毯が敷きつめられている。各地から献上させたものだろう。

この王朝とイギリス・ロシア・アメリカがむすんで、国民が苦しんだ。欧米の文明の悪弊を排して、自分たちの文明を急速に回復しようというとき、きびしく宗教で引きしめた直線的な行動が必要だったのだろうか。1979年のイラン革命から、まだ20年と少ししかたっていない。

「ザクロの道」

坂の街テヘラン。そのなかでも、とりわけ複雑に地形がいりくんだ場所に、バザールがある。坂を上ったり下ったりして、まず公衆トイレへ。

驚くほどの人がいる。となりにあるモスクにはいるまえに、まず、ここの水で身を清めるらしい。イランでは、男女ともに、日本式のしゃがむトイレが一般的だ。細いホースが備わり、先から水がでる。これでお尻の処理をする。男はともかく、ヘジャブの女性のトイレはたいへんだ。

カミさんによれば、女性はヘジャブをぬいで、フックにかけたり、ドアのうえにかけたりする。トイレの水の量は、どこでも意外なほど豊富だ。その結果、足もとがびしょ濡れになる。そこを長いヘジャブの裾が引きずる…。

バザールを見物。迷路の道に、3階建てのビルが組みこまれて、さらに複雑だ。天井のぬけた小さな広場で、野菜を売っている。大型の裸電球に照らされ、野菜の赤・緑・黄が、強いコントラストで浮かびあがっている。うちの鬼子母神が、また1つザクロを買った。

早めにバザールをでて、集合場所にむかう。出口の階段で、カミさんと離別させられた。女性は「あっちの階段」。

とっぷりと日が暮れて、冷気もましてきた。焼きイモ屋みたいに、なにかを温めて売る屋台がある。近づいてのぞきこむと、よこから黒いヘジャブをかぶったおばさんが、自分が買った赤いものを、ぼくに突きつけた。

ためらっていると、手で引きちぎって、食べろという。外が赤く、中が白い。口にいれたら、やわらかかった。「ああ、赤カブだ」。イラン語でラブー。ほろほろとイラン人のやさしい心が口のなかで溶けた。「ホシュ・マゼール(おいしい)」。どうにかこうにか、おぼえたイラン語の5分の1を発することができた。

この人たちがヘジャブをぬぐのはいつだろう。イランが宗教のくびきをゆるめるのはいつだろう。

待ちあわせ場所に、同行の老人夫婦がもどってこなかった。日没まえとは、街はちがう印象になる。やっぱり迷ったらしい。ガイドのMさんたちが駆けまわった。ようやく、ちがう出口で、じっと動かずにいた2人を見つけた。

バザールの迷路のように、ぼくにはまだ、イランがよくわからない。しかし、イランから日本へ、シルクロードをつたわって、とどけられたものの多さ。イランは、日本文化の1つのふるさとだ。そして、ザクロを、ナンを、ラブーを、さしだしてくれた人たち。ブッシュのように、この国を「悪の枢軸」などとよぶことは、ぼくにはできない。

イランから日本へ。ザクロ好きのカミさんはいう。「わたしにとっては、ザクロの道ね」。ザクロの道を帰る。
 

イラン紀行「ペルシアの火と土と水と風」おわり

 

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