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イラン紀行 ペルシアの火と土と水と風 2002年10月〜11月
日目

111

◆金曜日

 

シラーズ→ペルセポリス→パサルガダエ→シラーズ

ビシャプールへPERSEPOLISパサルガダエへ

馬がのぼれる石段

ペルセポリスは、シラーズの北方57kmにある。

街をはなれて30分、川をわたった。遠くに、ササン朝時代につくられたという橋が見えた。まわりを山にかこまれた、広い平野がつづく。畑地が多く、とちゅうのマルヴダシュトの街には、大きな穀物倉庫がならんでいた。

ザグロス山中、標高1,600mの高地に、やさしい気候にめぐまれた、ゆたかな耕地を見出して、意外な思いにとらわれた。しかし、大帝国をつくりあげたペルシア人を養ったのだから、それなりの土地であるのは当然のことかもしれない。

バスをおりたのは、工場裏のような殺風景な空き地だ。しばらく歩いて、遺跡のまえの広場に立った。ラフマト山を背に、大基壇のうえに10数本の石柱が高々とそびえている。ペルセポリス宮殿。やはり大きさに圧倒された。

むかってひだり、北西すみの大階段が入口になっている。段差10cm×段数111=大基壇の高さ11.1m。騎馬でのぼれるように、ゆるやかな傾斜だ。手摺のデザインは、メソポタミア由来のジッグラトを模しているとも、ゾロアスター教の炎をあらわしているともいわれる。

目だつアフラ・マズダ像

行政の都スサにたいして、ペルセポリスは宗教の都。聖壇ジックラトであれ、拝火教の炎であれ、この都の建築装飾は宗教色にあふれている。

基壇のうえに立って見おろすと、広場をへだてて、広大な松林がある。ここに街区があったという。松林のむこうにマルヴダシュトの街がかすんでいた。さらに遠くにシラーズの街がある。

万国の門(クセルクセス門)をはいる。ペルセポリスの宮殿は、祭事・儀式・謁見につかわれた。各国の使臣があつまった。アジアの東のはてからの使者、ぼくたちも恭しくすすむ。人面有翼獣や牡牛などの石彫が、迫力。かつては儀仗兵たちがならんでいたといわれる廊下のひだりに、双頭の鷲ホマの柱頭がおかれていた。

荒けずりの彫像がのこる未完成の間をすぎて、百柱の間にはいる。柱はなく、柱石だけがのこる。出入口をかざるレリーフは、いずれも王の力を誇示する図柄だ。王の頭上には、王の権威を高めるためのアフラ・マズダ像が、大きく翼を伸ばしている。宮殿のあちこちで、無数のアフラ・マズダ像を見た。

24番目の使節

東階段からアパダナ宮殿にはいる。ここは謁見殿であり、ノウルーズの祭事もおこなわれた。イランの新年ノウルーズとは、春分の日のことだ。つまり、ペルセポリスは「春の都」だったのだ。

東階段にむかうひだりの壁に、新年をあらわすという、牡牛にかみつくライオンのレリーフがある。これがはるか日本につたわって獅子舞いになった、などと想像をたくましくして、ふと、どこかで聞いた話か、自分の思いつきか、判然としなくなった。

東階段の壁のレリーフは、有名な朝貢の図だ。23の国々の使者が貢物をもって、行列をつくっている。行列の先頭は、もっとも近くのメディア人。ペルシアは、イラン北方のメディアをくだして勢いにのり、新バビロニア・エジプトを版図に加えて、大帝国となった。後尾は、もっとも遠国のエティオピア人。

オリンピックの入場行進みたいな気分になって、24番目の国の使節になったつもりで、階段をのぼる。

アパダナ宮殿にでた。高さ20mの石柱が天をつく。36本のうち12本がのこる。柱のうえには、レバノン杉をつかった屋根がのっていたという。バビロンのレンガ、エジプトの石、ギリシアの柱。世界の粋をあつめた3大陸宮殿だ。

キュロス大王の寛容

アケメネス朝はゾロアスター教を国教としたが、ほかの宗教には寛容だったという。奴隷もいなかった。女性の佐官さえいたという。

この国是をつくりあげたのが、ペルシアを大帝国に育てあげた、大王キュロス2世だった。なによりも、バビロン幽囚にあえいでいたユダヤ人を解放したのが、この大王だ。

前330年、アレキサンダーはペルセポリスで、勝利を祝って酒宴をひらいた。のちに王となったプトレマイオスの愛人タイスが、「アテネを焼いたクセルクセスの家を焼いて、底ぬけに騒ぎましょうよ」とそそのかした。アレキサンダーは松明をもって先頭に立った。だが、すぐ後悔して「火を消せ」と命令した(『プルタルコス英雄伝』)。

ことの真相はわからない。しかし、もう消火は間にあわなかった。のちアレキサンダーは、ことごとにキュロス大王の寛容な統治に範をもとめたという。

宮殿のうらのラフマト山の中腹をけずって、アルタクセルクセス2世の墓がある。のぼって遺跡の広さを俯瞰した。

もどりの道で、同行の80歳と70歳の老夫婦に追いついた。ぼくたちが休憩しているあいだに、15分早くのぼりはじめたのだという。

「時間を倍かければ、なんとかなりますから」
「外人さんが助けてくれたんですよ。腕をかしてくれて、ひょいと持ちあげられてしまいました」

とかく老人を敬遠しがちで、エスコートの腕力もない、自分のなかの日本人が情けなくなった。2人は、日本の山にも登っているそうだ。

アケメネス朝の墓地でササン朝の宣伝

ペルセポリスをつくったダリウス1世とクセルクセス1世の墓は、ペルセポリスにはない。

北西6kmのナグシェ・ロスタムとよばれる岩山に、ギリシア十字型の墓室が4つならんでいる。ダリウス2世とアルタクセルクセス1世を加えて、ここに4人の王が眠っている。

墓のしたの岸壁に、レリーフがある。しかし、これはアケメネス朝のものではない。のちのササン朝のものだ。あのビシャプールに都を築いたシャプール1世が、ローマに勝ったのを誇る戦勝記念碑。馬にのった王の足もとに、ひざを屈するローマ皇帝ウァレリアヌスが描かれている。

すこし離れたナグシェ・ラジャブの磨崖にも、ササン朝の王のレリーフがある。父アルダシールと子シャプール1世が、アフラ・マズダからリング(王権)を受けている図。

このあたりの山中には、ササン朝の王たちが刻ませたレリーフが多い。アケメネス朝の権威をかりて、自分の王朝の正統性を主張しているのだろう。

ペルセポリスへPASARGADAEシラーズへ

秋風パサルガダエ

ペルセポリスから、さらに北東へ70km。パサルガダエについたときは、かなり肌寒くなっていた。雲におおわれ、低い山並みにかこまれ、草深い原野が茫々とひろがる。黄ばんだ雑草のなかで、オオアザミが小動物の骨格標本みたいに白枯れていた。

大王キュロス2世が、ここにアケメネス朝最初の王都をおいた。しかし、彼は広大な領土を統治するために、季節によって3つの都を移動したという。メディアのエクバタナ(ハマダン)、エラムのスサ、バビロニアのバビロン。大王の謁見の間だったという一画で、柱頭をうしなった石柱が1本、寒々と空を刺していた。

風がわたる草原をバスで走って、キュロス大王の墓についた。寒い。見かねた同行のNさんが、ウインド・ブレーカーをかしてくれた。ここはイラン高地。きょうからは、11月。メソポタミアの陽気になれて、つい油断してしまった。

切妻の石屋根をのせた四角い石室が、6段の石壇の高みにある。地下にあるべき石棺が、宙に浮いている。墓には、こんな文字が刻んであったという。

「我つとに汝の来らんを知れり。我はペルシアを統治せしキュロスなり。我をつつむ僅かなる土を嫉むことなかれ」

キュロスは、やがて墓荒らしにやってくるであろう者に、暴かずに静かに眠らせてくれと、請うていたのだ。しかし、勝利に酔ったアレキサンダーの部下は墓を暴いた。

アレキサンダーは、犯人を見つけだして死刑に処した。そして、キュロスの運命と無常を哀しみ、キュロスの言葉を、あらたにギリシア語で彫りこませたという(『プルタルコス英雄伝』)。

イスラムの襲来にも、この墓はのこった。ギリシア語の功ではない。いつしかソロモンの母の墓だという伝説ができて、ソロモンを尊ぶモスリムが、敬して侵さなかったのだそうだ。
 

つぎは9日目。詩人を育んだ古都シラーズ、詩人たちの廟を訪ねる。

 

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