ZAGROS
◆「アラジンの不思議なランプ」の油
きょうは長いバス旅行になる。大河の流域地帯をはなれて、ザグロス山脈にわけいり、ペルシアの故地シラーズまでゆく。
広大な原野のあちこちで、石油が炎をあげている。1908年の油田発見以来、イランは欧米列強の権益競争の標的となった。イラン・イラク戦争で壊滅的な打撃をうけた。
ペルシア湾岸の地図を見れば、直線で切りとられたり、半島がちょん切られたりの国が多い。この地域が、いかに石油利権に翻弄されてきたかがわかる。しかし、いまイランの石油産出は回復して、順調らしい。
この産油地帯で、石油はいつごろからつかわれたのだろう。たとえば「アラジンの不思議なランプ」に、石油はつかわれたのか。「アリババと40人の盗賊」の油壺にはいっていたのは、オリーブ油か、ヤシ油か、ゴマ油か。まさか石油ではないと思うのだけれど。
◆『千夜一夜物語』は麻薬のおかげ?
『千夜一夜物語』についても疑問がわく。シェラザード(シャーラザッド)に聞いてみたいことが、山ほどある。
「ペルシア絨毯」に乗るのは、この物語がもともとペルシアの『千物語』を下敷きにしているというから、納得できる。しかし、「空を飛ぶ」のは、なぜだろう。「不思議なランプ」をちょいとこすっただけで、なかから謎の巨人があらわれる。こういう奔放な想像力は、いったいどこから生まれてきたのだろう。
「開け、ゴマ!」と、日本の子どもの空想の世界をひらいてくれた「胡麻」も、胡人すなわちイラン人がもたらしたものだ。しかし、なぜ「イランの麻」なのだろう。ゴマはゴマ科で、麻はクワ科。おなじものではない。クワ科の大麻は、ハッシーシュの原料だ。
密教では、「護摩(ごま)を焚く」。この護摩は、サンスクリット語のhomaからきているそうだ。ゾロアスター教との関係が疑われる。護摩を焚く効能とはなにか。
ゾロアスター教の経典『アヴェスター』では、麻薬と思われるハオマhaomaが礼賛され、儀式にもつかわれてきたという。homaとhaomaは、無関係とは思えない。
1説に、ハオマとは、ザクロの種類の植物だともいう。小枝を燃やして匂いをかいだり、樹液でつくった酒を飲むと、陶酔感・恍惚感が得られるらしい。
儀式のための秘酒ハオマ酒は、ヤギの乳を水で割り、ハオマの小枝をいれ、醗酵させるという。これにザクロの絞り汁を加えることもあるらしい。ザクロは人肉の味がするといい、鬼子母神はわが子を食べたという。この背景にも、麻薬の幻覚を思う。
ゾロアスター教の秘儀の伝統と技術をうけついだのか、中世のイランには、「山の長老」という奇怪な人物がひきいる、麻薬(hushish)を活用した暗殺(assassination)集団さえあったそうだ。
「アリババの油壺」には、どうやら芥子油がはいっていたようだ。ケシは美しい花を咲かせるが、アヘンの原料でもある。イラン人は、大麻だの芥子だのにかかわりが深い。
「開け、ゴマ!」のゴマが、たんなるゴマだったとは思えない。どこかで、なにかが、入れ替わったのではないか。もともとは、空想の世界の扉をひらく、効きめの強い秘薬だったのではないだろうか。
「空飛ぶ絨毯」の浮遊感、「不思議なランプ」の膨張感。イラン人(アーリア人)の故郷はロシア南部。大麻の原産もロシア南部。ぼくに麻薬体験はないけれど、『千夜一夜物語』の想像力の源泉に、民族のもつ幻覚体験があったと考えるのは、うがちすぎだろうか。
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