◆眠る街
古くて重い木製の扉をおして、金曜日のモスクにつづく裏街へでた。ここはヤズドの旧市街。
日干しレンガの角が溶けて、街は砂ぼこりにおおわれている。マルコ・ポーロが見た栄華は消え、白い土が白い土へ、黒い影を落としている。
ゾロアスター教の秘儀にもちいられたと聞く、ハッシーシュ入りのハオマ酒に酔い痴れて、街は眠りに沈んだかのようだ。
路地のおくの家にはいるには、土のトンネルをかがんですすまなければならない。これは騎兵の不意の攻撃を避けるためだったという。
とある屋敷の屋上にのぼった。街は白い土の波のうねりに見えた。遠くの金曜日のモスクのタイルの青さえが、土ぼこりにまみれてぼやけている。
1272年、マルコ・ポーロが、この地を訪れた。彼は『東方見聞録』で、ヤズドについて、「もっともノーブルな街」と記している。「学識の高い、すぐれた人々の住む、うつくしい街だ」と。
街は死んだのではない。いまも人が住む。ただ歴史が眠っている。このヤズド旧市街は、いま世界遺産になるのを待っている。
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