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イラン紀行 ペルシアの火と土と水と風 2002年10月〜11月
日目

1027

◆日曜日

 

ヤズド→イスファハン

ヤズドの1日目へYAZDイスファハンへ

「金曜日のモスク」

アミール・チャフマーグ広場をすぎて500m、ひだりにおれると正面に、2本の尖塔ミナーレが見えてきた。

高さ57m。金曜日のモスク(マスジェデ・ジャーメ)だ。尖塔をのせた長方形の正面入口を、高いアーチがえぐっている。青を主調にしたタイルがうつくしい。アーチの高みにある、鍾乳洞を模したムカルナスの複雑な曲面にも、念入りなタイル装飾がほどこされている。

この金曜日のモスクには、長いあいだにかさねた、いくつもの宗教の混色がある。

この敷地には、もとササン朝のゾロアスター教寺院が建っていた。入口にいたる小さな石畳には、9〜10世紀の、大理石製の2本の低い門柱がのこっている。タイルにはローマの十字型文様が見られる。

モスクはゾロアスター教の影響をうけて、4つの窓から明るい外光をとりいれている。メッカにむかって祈るミフラブの両側には、キリスト教の告解室のようなものまである。中庭には、紀元前につくられたという、カナートがある。

いったいこの混交はなんだろうか。このおおらかさ、このゆるやかさ。はなやかな文化には、ゆるやかでおおらかな混血がある。

眠る街

古くて重い木製の扉をおして、金曜日のモスクにつづく裏街へでた。ここはヤズドの旧市街。

日干しレンガの角が溶けて、街は砂ぼこりにおおわれている。マルコ・ポーロが見た栄華は消え、白い土が白い土へ、黒い影を落としている。

ゾロアスター教の秘儀にもちいられたと聞く、ハッシーシュ入りのハオマ酒に酔い痴れて、街は眠りに沈んだかのようだ。

路地のおくの家にはいるには、土のトンネルをかがんですすまなければならない。これは騎兵の不意の攻撃を避けるためだったという。

とある屋敷の屋上にのぼった。街は白い土の波のうねりに見えた。遠くの金曜日のモスクのタイルの青さえが、土ぼこりにまみれてぼやけている。

1272年、マルコ・ポーロが、この地を訪れた。彼は『東方見聞録』で、ヤズドについて、「もっともノーブルな街」と記している。「学識の高い、すぐれた人々の住む、うつくしい街だ」と。

街は死んだのではない。いまも人が住む。ただ歴史が眠っている。このヤズド旧市街は、いま世界遺産になるのを待っている。

風の塔バードギル

アミール・チャフマーグ広場にもどる。

15世紀に建てられたタキイェとよばれる、いかにも商業の民ムスリムに似つかわしい、バザールやモスクなどの複合施設がある。

シーア派12イマームの3代目ホセインゆかりの地。ホセインは、毒入りのザクロ・ジュースで暗殺されたという。

バザールの入口に、2本のミナーレが立っている。広場をかこむ建物に、ミナーレとはちがう、ふしぎな塔がついている。円筒に近い多角の塔で、塔のまわりは縦格子になっている。「風の塔」(バードギル)だ。

塔は、カナートの水を引いた地下室とむすばれている。空から地へ、地から空へ。風の流れの放熱が、その中間の居室を冷やすという仕組みになっている。この装置で内外の温度差は10℃にもなるという。ゾロアスター教の神聖な火と土と水と風は、こんな働きもしている。

ヤズドをあとにして、いったんナインの街までもどり、ここからザグロス山中にわけいって、イスファハンにむかう。

とちゅうキャラバン・サライとカナートに立ち寄った。どちらも砂漠をわたる人たちには欠かせないものだった。しかし、いまは時代の波がおしよせ、荒廃がはげしい。

ヤズドの2日目へESFAHANイスファハン2日目へ

ザーヤンデ川のほとり

夕刻、イスファハンについた。ホテルにはいろうとすると、まだ部屋があいていない。アメリカ人グループのチェックアウトが遅れて、部屋の掃除ができていないという。

アメリカ人なら、ありそうなことだと、イランのホテルを許した。イランを「悪の枢軸」と名指した正義のアメリカは、こと躾けの悪さに関しては、世界のコンセンサスをとりつけている。

部屋があくまでのあいだ、風が枝葉をゆする、みごとな並木のチャハール・バーグ大通りを、ザーヤンデ川にむかって歩いた。

川には三十三アーチ橋(スィー・オ・セ)がかかり、ライトアップされている。10月末だというのに、夏の夕涼みのように、そぞろ歩きする人たちが多い。

橋脚のしたのトンネルが、そのまま水辺のチャイハネ(茶店。甘い紅茶や水タバコなどを供する)になっている。ぼくたちも、ここでお茶にした。街にやってきた、人のよさそうな近郷の若者たちと挨拶をかわす。

エスファハンには、水辺をたのしむ、ゆかしい習わしがある。京都鴨川あたりにいるような気分になった。
 

つぎは4日目。「世界の半分」といわれたイスファハンへ。イマーム広場、宮殿、バザール。

 

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