REVIEW

ALONE IN MY ROOM

45 SECONDS OF SCHIZOPHRENIC SABBATH
521 SECONDS SCHIZOPHRENIC SYMPHONY
KEYBOARD SOLO
ENTER THE DRAGON
WHEN THE RAVEN HAS COME TO THE EARTH
ZARKUS

FLIED EGG


NOT RELEASED ON CD 成毛滋/ALONE IN MY ROOM (1974)
  LP, CDともまだリリースされていない

    Part 1  Prelude
    Part 2  Dance of the Fairy
    Part 3  Cobweb
    Part 4  After Three Years
    Part 5  Desperation
    Part 6  Alone in My Room

この曲はCD化はもちろんLPにもなっておらず、そのせいもあってキーボードファンの間でもほとんど言及されることがない。しかし、この知られざる組曲はわが国プログレ史上のマイルストーンとも言うべきマルチ・キーボードの傑作だと思うので、ぜひ紹介しておきたい。

※8月にこの曲について書いた後、嬉しいことに成毛さんご本人から未発表音源を含むテープをたくさんいただいた上、詳しいいきさつを伺うことができ、Webでの公開に関しても許可をいただいたので、以下データを補足して改稿します。成毛さん、どうもありがとうございますm(_ _)m

筆者が"Alone in My Room"の存在を知ったのは1976年頃(だと思っていたが、成毛さんに頂いたデータによると1975年かもしれない)NHK-FMでオンエアされたスタジオ録音のPart 3を聴いてだった。DJは渋谷陽一だったが番組はヤングジョッキーや「ロック夏期講座」ではなく、シンセサイザーの特集番組だったような気がする(VangelisのHeaven and HellやEnoのThe Pawpaw Negro BlowtorchやTodd RundgrenのSidewalk Cafeなどがかかり、今泉洋氏がシンセのデモ演奏を行ったりした番組もあったが、それとはまた別)。ヤングジョッキーだったらこの曲ももっと知られているはずだし。一聴してすごく感激し、エアチェックしたテープをずっと聴き続けて来たものの、結局この曲については以後約20年ほどもそれ以上何ひとつ分からなかった。それが数年前にNiftyである方に、「当時民放FMで組曲としてスタジオライブがオンエアされ、フジテレビのミュージックフェアでもRick Wakemanさながらのマルチ・キーボード・セッティングでPart 3がオンエアされた」と教わり、FMライブを聴かせていただいて、さらにこの曲に対する関心が深まっていたところへ今回成毛さんから直接いろいろと興味深いお話を伺うことができたというわけである。

さらにその後、このページをご覧になった方(複数)から"Alone in My Room"の初オンエアについて情報をお寄せいただいた。総合すると1975年(スタジオ録音の日付から推定)のNHK「若いこだま」サンディアイ担当の日に成毛さんがゲスト出演されてコメント付きで全曲オンエアしたのが最初のようだ。「若いこだま」は一般にはAMだったが、情報を下さったKさんがお住まいの新潟ではなんとFMで放送されていたとのこと(!!)。その時のエアチェック音源を聴かせて頂いたのだが、ダビングを繰り返しているため音質が劣化しており、それを補うために本来のステレオ音源をモノラル化しているとはいえ、やはりFM特有の抜けの良さが残っている。サンディーアイは番組中で「若いこだま」のことを「ヤングエコー」と呼んでいるが、これは彼女だけが個人的に用いていた呼称らしい(^^;)。というようなことで、詳しいいきさつをご教示くださったKさん、どうもありがとうございました!! もうひとつ、Kさんからお寄せいただいた情報。「ロッキンf」77年1月号に成毛さんのご自宅のスタジオ紹介記事が多数の写真入りで載っている。ちょうどAlone in My Room当時のものなので、写真に写っているキーボードのセッティングもグランドピアノ以外全く同じだ(下図参照)

以下、分かっている限りのAlone in My Roomの録音&ギグのデータを記す。レビューは最後に。

■1974/11/18〜19 CBSソニー 第2スタジオにてデモテープ録音 (75年にNHK「若いこだま」で全曲オンエア。75/6以降、NHK-FMでPart3 Cobwebのみオンエア)
Dr.Siegel ―― Keyboards, Guitar
Toshiyuki Watanabe―― Drums
Fujii (First Name Unknown) ―― Bass

筆者が最初に聴いたものがオンエアされたこのPart 3。その時はCobwebというタイトルは紹介されなかったので、ずっとただのPart 3だと思っていた。今回、成毛さんのお話ではじめて全パートにタイトルがついているのを知った。Alone in My Roomはすべてインストルメンタルだが、標題音楽として聴くとたしかにタイトルのイメージ通りの曲調である。

成毛さんによると、この時のデモは「ディレクターに"こんなもの音楽じゃない! なんでベンチャーズをやらないんだ"と言われて没」になったとのこと。さらに「そこでワーナーパイオニア等、他のレコード会社にもテープを持って行きましたが、どこも相手にしてくれず、全部没」。1974年暮といえば、もう英国をはじめヨーロッパではプログレ・マルチ・キーボード全盛だし、わが国でもELPが人気投票第1位だったりした時代なのに、この曲に対してベンチャーズを引き合いに出すような認識しかされてなかったとは……。遅まきながら数年後には日本でもプログレバンドがいくつも出てくるわけだが、成毛さんの場合は先駆者ゆえの悲劇としか言いようがない。

■1975/4/26 "NARUMO SHIGERU CONCERT" 神田共立講堂
Dr.Siegel ―― Guitar, Keyboards(except ENTER THE DRAGON), Nunchaku on ENTER THE DRAGON
Hiro Tsunoda ―― Drums, Cry on ENTER THE DRAGON
Kazuaki miyata ―― Bass
Katsuhiko Kamitsuna ―― Keyboards(except KEYBOARD SOLO)

KEYBOARD SOLO
ENTER THE DRAGON
521 SECONDS SCHIZOPHRENIC SYMPHONY
WHEN THE RAVEN HAS COME TO THE EARTH
ALONE IN MY ROOM

観客の録ったテープで残されている最も初期のライブだが、肝心の"Alone in My Room"はテープ切れで聴くことができない。しかし、ここでもいろいろと興味深いことが分かる。各曲のレビューはリンク参照。
 

■1975/5/28 (7/8オンエア) フジテレビ "ミュージックフェア"ヴィデオ収録 (Part 3 Cobweb のみ)
Dr.Siegel ―― Keyboards, Guitar
Takeshi Inomata ―― Drums
Isao Etoh ―― Bass

<キーボード・セッティング>
Keyboards Setting

唯一の映像記録であるこのヴィデオは、やっぱり視覚的インパクトが凄い。コの字型に積み上げたキーボードの壁は噂通りWakemanのようだ。事情があってリズムセクションは全く映っていないためカメラワークはキーボードに専念しており、キーボードチェンジの際も巧くショットが切り替わるので、鍵盤が見えないというフラストレーションは全くない。特筆すべきはつねに両手が鍵盤上にあること。他の奏者でけっこう目にするのだが、たくさんキーボードを並べても片手で一台ずつ弾いてるようなのはマルチキーボードではない。成毛さんは両手だけじゃ足りず、音楽的要請に従って終盤のハモンドのグリッサンドをなんとひざで弾いている!  もちろん右手でミニムーグ、左手でソリーナを弾いているから、ここでは同時に3台のキーボードが鳴っているわけだ。MIDIなんかなくてもここまでやれるという究極の例である。しかし、成毛さんによると「あれが又、"足で鍵盤を弾くなんて音楽じゃない!"・・と評論家を怒らせたようです」。……これには絶句。しかし、あの演奏を仮にテープで音だけ聴いて、はたして足を使ってるなと気づいただろうか?  ロックというジャンルは生来的にある種のショーマンシップ志向を持っておりアーティスト、リスナーともに他のジャンルに比べてそれをプラスに評価してきたのだが、この曲の必然性のある極めてスムーズな展開はそうしたロック的なギミックとすら無縁で、むしろ音楽家の内的要請に基づくものだ。評論家氏のロック者とも思えない狭量な発言も驚く他はないが、表層的な見方にとらわれるあまり、音楽の本質すら見落とすようでは「音楽」評論家失格だろう。多重録音などに頼らず、生身の人間の力で弾けるだけ弾きまくるのがマルチキーボードの魅力。そして、ライブならではのユニークなアイデアでオーディエンスを視覚的にも魅了した成毛さんはマルチキーボード奏者の鑑として賞賛されることこそあっても、非難されるいわれなんかどこにもない。う〜ん、思わず熱くなってしまったけれども、筆者にとってこの映像はほんとに久々に血が騒いだ、感涙もののお宝アイテムだ。
 

■1975/9/23 神田共立講堂
■1975/10/12 千代田公会堂 (Part 1〜5)
Dr.Siegel ―― Keyboards, Guitar
Hiro Tsunoda ―― Drums
Isao Etoh ―― Bass
Katsuhiko Kamitsuna ―― Keyboards on Part 4

CBSソニーの別のディレクターからライブアルバムの企画が持ちかけられて収録したものの、ロックに不慣れな歌謡曲のミキサーのミスで一度目は録音に失敗。二度目も使えないパートがあったり、スタジオでの差し替え中にキーボードパート他を一部消されてしまうという事故が起こったりという災難に見舞われながらもようやくレコーディングが完了したが、「そのあとの製作会議でチーフディレクターが、"なんだこれは!こんなものが出せるか!"・・と言って発売中止になっただけではなく、やっとミックスダウンしたマスターテープまで廃棄処分にされてしまいました」(成毛さん)。いったいそのチーフディレクターとやらがどれほどの見識を持っているのか知らないが、アーティストの作品を廃棄するなんて文化財損壊罪に問われても仕方ない行為ではないだろうか。そのことばだけを聞いているといったいどんな「ひどい」曲なのかと思うが、幸いにも残っているモニターテープを聴かせていただいて受けた印象は、当時の英国およびヨーロッパの名盤と比べても音楽性、テクニックともに何ら遜色がないということ。弊HPで紹介しているようなバンドが好きなリスナーなら一発で気に入るはずだ。先に聴いていたFM東京ライブと比べると、スタジオでオーヴァーダビングしている分だけ音に厚味が増している。しかし、その追加された音もむやみと重ねているわけではなく、ライブソースとは音域、フレージングとも衝突しないよう周到なアレンジが施されていて極めて整合感が高い。
 

■1976/5/4  (1976/5/23オンエア) FM東京"シンセサイザーの世界"収録 (Part 1-3,5)
Dr.Siegel ―― Keyboards, Guitar
Hiro Tsunoda ―― Drums
Kazuaki Miyata ―― Bass

富田勲氏といっしょにシンセの特番に出演された時のライブ。富田氏も最初日本のレコード会社からはアルバムが出せなかったという話になり、「そこで僕もツテを頼ってアトランティック等外国のレコード会社にテープを送ってみたのですが、時すでに遅く、反応はありませんでした。"サウンドが古い"と言われたようです」(成毛さん)。……そうかなぁ。プログレって一部の先鋭的な音楽を除くとアーティストもリスナーも様式美を好んでいるという図式は当時からそうだったと思っているのだが。70年代末にこぞって時流に乗ろうとしたものの、一般のリスナーにもプログレファンにも受け入れられず総崩れになったのが何よりの証拠じゃないだろうか。いまや昔の曲のトリビュートが商売になるほど世間の空気は変わって来ているし、改めてCD化を期待したいところなのだが、「その時のマルチのテープは残っていたので、90年代に入ってから"CDで復刻しよう"という話もあったのですが、直後にそのレコード会社がつぶれてしまいました。どうもあの曲はどうやっても世に出られない運命みたいです」(成毛さん)。というようなこともあったそうで、つくづく運がないと思わざるを得ない。なんとかならないものだろうか。レコード会社さん、ホントもったいないですよ、こんな傑作が陽の目を見ていないなんて。需要はきっとあります。


"ALONE IN MY ROOM"全曲レビュー (FM東京ライブをベースに、適宜他の音源も参照)

Keyboard Solo (almost 5:00)
成毛さんからご指摘を頂いた。このパートは本来"ALONE IN MY ROOM"の一部ではなく、P.A.ミキサー調整のためとオーディエンスへの楽器紹介を兼ねてのものだったとのことだ。

ソリーナのソロによる静かな序奏に次いで、ベート−ヴェン「運命」が引用される。ほどなくヴィヴァルディ「四季/春」へ。これらは原曲に忠実な演奏で左手も十分に駆使され、クレッシェンドなど表情付けも豊かだが、すべて耳コピだそうである。ただし、前半のここまではクラシック的であること以上に面白味のあるアレンジではない。曲はその後再びベート−ヴェンに戻って「歓喜の歌」が演奏されるのだが、ここでのメロトロン混声コーラスの音色が旋律に見事に調和しながら原曲の新たな可能性を引き出しており、ゾクゾクするほどカッコいい。余談だが、筆者はアニメーション「新世紀エヴァンゲリオン」第弐拾四話のクライマックスで同じくこの曲が引用されたシーンを思い出してしまった。このアニメは成毛さんとはさらに不思議な縁がある。成毛さんもマルチキーボードの先達としていくらか意識しておられるはずのRick Wakemanが"YESSONGS"収録キーボードソロでヘンデルのハレルヤコーラスを引用しているが、この曲もまた「エヴァ」第弐拾弐話で使われているのだ(TV版で使われたクラシックはこの2曲のみである)。「エヴァ」を介した成毛さんとWakemanというマルチキーボードの日英両巨頭。偶然以外の何物でもないはずだが奇妙な符合である。

ALONE IN MY ROOM

Part 1  Prelude (2:00)
EP-10によるハープシコードのアルペジオを伴奏にソリーナがメロディー、ハーモニーを受け持ち、メロトロン・コーラスがそれを引き継ぐ。次いでハープシコードが止み、メロトロン・コーラスはそのままに再びソリーナが登場してハモるゆったりとした曲。サビのモチーフは以後のパートにも繰り返し使われる。

Part 2  Dance of the Fairy (0:45)
メロトロン・コーラス、ピアノでバロック風の主題が繰り返され、ハープシコードでさらにもう少し展開される。間奏曲。

Part 3  Cobweb (4:12)
キーボード・プレイに関しては組曲中最大の聴きどころ。Rick Wakeman度も極大値を示す。ミニムーグは音色からレゾナンスやポルタメントのかかり具合、そしてもちろんフレーズに至るまでいちばんおいしい「初期」Wakeman節そのまんまである。まず、ハープシコードとミニムーグのユニゾンでアグレッシヴなリフが奏された後、ハモンドの和音同音連打を経てきちんと作曲されたミニムーグのおそろしくメロディアスなソロへ。左手も十分に駆使されており、ハモンドとメロトロン・コーラスが効果的に使われる。ここでの装飾音や半音階の使い方などはほんとにWakemanの未発表曲といってもいいくらい酷似しており、Yessongs収録のキーボードソロ「ヘンリー8世からの抜粋」が好きな人にはこたえられないだろう。これはもう明らかに意図的な模倣であり、トリビュートを狙ったものに他ならない。Wakemanタイプのフレージングは難しいのか(そんなことはなさそうだが)、Emersonの場合と異なり、意外にフォロワーらしいフォロワーがいないように思うが、このPart Threeにおける成毛滋はまさしくその最右翼だ。曲はさらに冒頭のリフの鏡像的裏返し型リフを挟んでロンド風に進行し、感動的に盛り上がるコーダへと至る。

Part 4  After Three Years  (4:00) ※千代田公会堂ライブ
ブリッジにほんの数小節ピアノが入るが、これも初期のWakemanぽいクラシカルなものである。この後、キーボードにサポートのメンバーを入れて、成毛氏はギターに専念。ゆるやかな3連のリズムに乗って、よく伸びるメロディアスな泣きのフレーズが炸裂している。この表現力は見事という他ない。

Part 5  Desperation  (8:23)
Wakeman風のオルガンポイントを用いたミニムーグのリフに導かれてリズムセクションが入ると同時にアップテンポとなり、そのまま短い作曲されたソロパートへ。さらにまた"Anne of Cleves"あたりを思わせるフレージングのレスリー速回しのハモンドソロが続く。ただし、ミニムーグは右手のみだし、このパートではミニムーグ、ハモンドともテクニック的にはさほど難度の高いものではない。次いでベースとドラムの短いソロを挟んで、御大がギターに持ち替えて登場。前パートとは違ってこちらはクライベイビーを駆使したよりハードなソロ。多種多様のテクニックとフレージングはさすがに雄弁で、懐かしめのブリティッシュロック好きにはたまらないものがある。成毛氏のノリもある意味キーボード以上でまさに入魂のソロだ。まだもうちょっと聴いていたいなぁ、と思う程度の長さでギターソロは切り上げられ、再びミニムーグのリフ〜ハモンド・ソロに回帰する。ご本人によると、ここのエンディング前のグリッサンドもやはり足で弾いているそうである!

Part 6 Alone in My Room  (3:00) ※作曲時のデモテープ
Part 4の叙情的な主題が最初はアコースティックギターの3連のアルペジオに乗せてメロトロンフルートで、次いでピアノとリズムセクション入りでソリーナで奏される。ギターがそれを引き継いで盛り上がり、ピアノの華やかな下降アルペジオで一度終止した後、今度はピアノ独奏で主題が再現されて終わる。

唯一手元にあるスタジオ録音ヴァージョンのPart 3 Cobweb (4:34)をライブ・ヴァージョンと比べてみてもテクニカルな荒さはほとんど感じられず、重要なラインはすべてライブでも再現されており、逆に遊びは一切見られない。元々スタジオでもライブを念頭に置いたアレンジがなされているし、この成毛滋という人も筆者が常々こだわっている「多重録音に頼らず、10本の指を駆使して弾く」キーボード奏者の一人だ。クラシック生え抜きの人などと比べると技巧的に若干見劣りすることは否めないし、フレージングの音域がやや狭く、Wakemanのように手癖に任せて奔放なアルペジオを弾きまくるというようなことこそないものの、左手貢献度が高く、複数のキーボードを同時に鳴らすマルチ・キーボードならではの醍醐味を堪能できるという意味で、高く評価したい。あらためてスタジオ、ライブ共々この音源のCD化を切望する。



<その他の未発表音源について>

KEYBOARD SOLO (at least 7:05)(1975/4/26 神田共立講堂)
「運命」から「歓喜の歌」までの構成は上述したソロと同じだが、後半、Emersonの"Aquatarkus"のテーマに続いて聞こえてくるのは、なんとRick Wakemanの"Jane Seymour"である。完コピである。そうか、やっぱり、という感じ。"Alone in My Room"のPart 3はフレージング等にWakemanの影響が感じられたが、このキーボードソロを聴いてあれは思い込みではなかったんだな、と少し安心した。ひとの音楽を軽々しく「何々に似ている」と言うのは、ある意味でオリジナリティを否定することに繋がるが、ここで成毛さんがこれだけ見事にWakemanを弾いてくれているのだから、"AIMR"は「意図的なオマージュ」というニュアンスで捉えることができる。ただし、このすばらしい"Jane Seymour"、残念ながら曲の途中でテープを裏返しているため、最初と最後しか聴くことができない(ToT)

ENTER THE DRAGON (1:05)(1975/4/26 神田共立講堂)
ご存知、ラロ・シフリンの「燃えよドラゴン」のテーマ。流行りましたねぇ、当時。しかし、成毛さんってこういうキャラクター(キーボードは上綱氏に任せてヌンチャクを披露)の持ち主だったとは(^^;)。サービス精神満点。つのだ☆ひろの叫び声もハマりすぎるくらいハマっている。これは映像が発掘されてこそ真価が分かるという気もする……。

WHEN THE RAVEN HAS COME TO THE EARTH (6:10)(1975/4/26 神田共立講堂)
ゆったりとしたピアノ、メロトロンフルートを基調に雄弁なギターがリードを取り、時折テープによる効果音も交えて語られるスケールの大きな譚詩曲。Strawberry Pathのアルバムタイトル曲である。

45 SECONDS OF SCHIZOPHRENIC SABBATH (0:45)(1971/3/11 VICTORスタジオ HAMMOND T-200)
これは一聴するとバッハのオルガン曲かと思うほど、バッハに酷似したフレージングだ。バロック風のモチーフを導入したプログレキーボード曲も少なくないけれども、ここまでバッハ独特のスタイル(ですよね、ブクステフーデなんかとは明らかに違う)を捉えたものは筆者は他に知らない。左手やベースパートも対位法的な処理が施されており、完成度は非常に高い。これからさらに対位法的に発展していくのかな、と思う間に終わってしまうのが実に惜しまれる。小品ではあるが、成毛さんのクラシカルなセンスが十二分に爆発している。Strawberry Path時代の曲。

521 SECONDS SCHIZOPHRENIC SYMPHONY (7:00) (1975/4/26 神田共立講堂, 1975/10/12 千代田公会堂)
Flied Eggの2ndアルバム"GOOD BYE FLIED EGG"に収録されている同タイトルの曲の再アレンジ、マルチキーボード・ヴァージョン(ちなみに1stアルバムには15 Seconds of Schizophrenic Sabbathという曲がある)。1975/10/12 千代田公会堂でAlone in My Roomと同時に収録されたライブである。ただし、「ディレクターが"ここは要らないよ"・・と言って勝手に4th MOVEMENTをカットしてしまいました。ですから3rd MOVEMENTで突然終わっています」(成毛さん)。そのせいで、タイトルにある521秒とは裏腹に約300秒しかない。ただ、ファンの手による1975/4/26 神田共立講堂での録音が残っており、こちらでは4th Movementまで聴くことができる。ハモンドによる聖歌調の1st Movement、音域も広く跳躍も大きなWakeman風クラシカルピアノソロの2nd Movement、マルチキーボードによる3rd Movement、さらにギターを加えて1st Movementを変奏する4th Movement。キーボード的に興味深いのは、なんといっても難度の高い2nd Movementだ。成毛さんのお話だと、クラシックの素養は幼い頃のバイエルしかないとのことだが、それならなおさらのこと、こうした複雑で端正なフレーズを作るセンスには驚くより他はない。また、曲の一部にAlone in My Roomでも使われたフレーズが登場する。

ZARKUS (3:54)
Erection(勃起)〜Mancotire(マンコティア)(1977/5/24 成毛氏自宅スタジオ)
同じくFlied EggのOke-Kus(こちらは1stアルバム"Dr. SIEGEL'S FRIED EGG SHOOTING MACHINE"(1972)に収録)の続編。Oke-Kusはタイトル通りELPのTarkus風なことで有名だが、この続編はタイトルも含め(爆)、さらに一段とパワーアップしている。前作ではピアノのベーストラックにオスティナートを配し、ハモンドとARPのリードパートをその上に重ねていくという手法が用いられていたが、今度はほとんどがハモンドの一発録りである。ちょうどTarkusのManticoreと同じ9/8のリズムのオスティナートに乗って、無窮動曲風なせわしない右手が蜿蜒と続く。この両手のコンビネーションは相当難度が高い。「"ZARKUS(ザルカス)"は別のレコード会社で"オケカス"の続編としてレコーディングするつもりだったんですが、デモを録ってる途中で"没"が決定してしまったので、デモも完成させられませんでした。ま、ERECTION(勃起)、MANCOTIRE(マンコティア)・・という名前が悪かったのかもしれません。(レコード会社はジョークを理解してくれません) これはB-3の上鍵盤を左手で、下鍵盤を右手で弾いています」「77年5月24日にうちのスタジオで録ったもので、ドラム四つ田、ベース石井というメンバーです。 この前"一発録り"と言いましたが、メロトロンとEP-10は後で差し替えています。 日本のレコード会社はディレクターもミキサーも全くあてにならないので、僕は自分でスタジオを作り、16trのテープレコーダーと24chの卓を入れ、自分でレコーディングする事にしました。 すると、あるレコード会社が"新しくロックのレーベルを作るから一緒にやらないか"・・と言ってきたので、僕は"今度こそ!"と思って、ALONE IN MY ROOMをはじめ、何曲か自分でレコーディングし、ZARKUSもデモを録り始めたのですが、その途中でレーベルの話がつぶれてしまいました。(あと、AQUA-OKEKUSというのもあったんです。ハハハ・・)」(成毛さん)。あぁ、またしても……。その企画が実現していたら、きっと凄いことになっていただろうに。

Alone in My Roomは随所にWakeman的なセンスが感じられたが、このZarkusはガラッと変わってEmerson的だ。それは左手のオスティナートによるところが大きい。Oke-Kusではオーバーダビングのためか、むしろ右手のフレーズのリズムにEmerson的なものを感じたのだが、今回の右手のフレーズは息が長いこともあってかどこかTriumviratのPanic on a 5th Avenueのそれを思い出させた(あっちはオスティナートもないし、リズムも違うのだけど)。スケールの使い方かもしれない。まぁ、あちらも大なり小なりEmersonの影響を受けているのだから、間接的に似ていても不思議ではない。ところで、ELPのトリビュートアルバムが最近いくつも出ているが、この曲などオリジナルにしてトリビュートであるという意味でまさにピッタリ。これを入れようという慧眼の士はどこかにいないものだろうか。というより、やっぱり成毛さんのマルチキーボードのフルアルバムがまず1枚欲しいな。


<参考アルバム>
 
FLIED EGG FLIED EGG/DR. SIEGEL'S FRIED EGG SHOOTING MACHINE(1972)
  国内盤LP ヴァーティゴ FX-8603(廃盤) 
  国内盤CD PCD-1595

    Dr. Siegel's Fried Egg Shooting Machine
    Rolling Down the Broadway
    I Love You
    Burning Fever
    Plastic Fantasy
    15 Seconds of Schizophrenic Sabbath
    I 'm Gonna See My Baby Tonight
    Oke-Kus
    Someday
    Guide Me to the Quietness

伝説的なOke-Kus収録。全てこの曲のようなマルチキーボードというわけではないが、どの曲もかなりキーボードの比重は大きく、成毛滋のギタリストとキーボード奏者二つの側面を知るには最適だろう(ちなみにFlied Eggでは"展覧会の絵"をやっていたし、その前のStrawberry Pathでは"アメリカ"や"ロンド"をやっていたとのこと)。アルバムは基本的には同時代のプログレがかったブリティッシュロックの匂いが強く、それと知らずに聴けば曲によっては日本のロックだとは気づかないかもしれない。そういうとオリジナリティが不足していると受け取られるかもしれないが、逆にわが国のロックがまだ黎明期だったことを考えるとたいへんなことで、オリジナル曲でここまで海外のバンド同等のセンスと演奏力を有していたバンドなど当時数えるほどしかなかったはずである。他のメンバーもつのだ☆ひろ(ds)、高中正義(b)と強者揃い。すでにキャリアのあったつのだ☆ひろはもちろん、当時まだ10代だった高中のプレイも小気味よく、攻撃的かつシャープなベースを聴かせてくれる。このアルバムは最近紙ジャケのCDで再発されており、まだ新品で手に入るはずだ。