浅羽莢子さんご逝去に寄せて

 

先月18日「火吹山の魔法使い」など様々なゲムブックの者でもあり、

それ以外にも各種英米文の翻で活躍していた、羽莢子さんがご逝去されていたそうです。

に恥ずかしながら、今、知りまして驚愕しています。

 

謹んでご冥福をお祈りします。

 

918日というと・・・

自分のゲムブックリプレイblog

Livre dont vous êtes le héros(君が英雄になれる本)」では

奇しくも彼女の翻したゲムブック「雪の魔女の洞窟」の冒にて

主人公ブリッツくんが<癒し手>と出っていた頃ですね。

念ながら、ペンティラの癒しの術は、この遠い日本までかなかったようです。

 

1980年代、まだこの日本に何もなかった頃、

彼女が翻訳したファイティングファンタジという“福音”は、あまりに大きなものでした。

「火吹山の魔法使い」というおかしげな表紙の本を、友達から借りたばかりの

生時代の自分は、そう、まるで太陽神グランタンカの煌きの如くほとばしる文体に

そのスピドに、エンタテイメント性に、ぐいぐいと引きまれて

むさぼり読んで感銘に震えたのを、あのときの精神世界を、まざまざと思い返せます。

「ああ!僕はついに新しい世界を見つけた!」と、それはまさに大航海時代の船乗りのように。

 

彼女が翻訳に成功した「火吹山」「バルサス」そして「ソーサリー」がなければ

ファンタジーに興味を示す、自分のようなゲームファンは多数生まれなかったでしょう。

したがって、新和もD&D日本語版を作らず、そのD&Dのリプレイから始まったロードス島も生まれず

ということならばソードワールドも、ドラゴンランスもなく、

TRPGの第一期ブームも起こらず・・・

現在のTRPGの隆盛は、そしてファンタジー文学の盛り上がりは、果たしてありえたでしょうか。

 

今、ここに、自分の手元に、1冊の本があります。

創土社版のゲームブック「諸王の冠」です。訳者名には彼女の名がしっかりと刻まれています。

おそらくひょっとしたら、彼女が為した最期のゲーム関係の著作かもしれません。

 

ページをめくれば、彼女の才能でまぶしいばかりです。

歯切れのよい体言止め、見事に再現された英国のウィットとエスプリ、

ぎりぎりまでの緊迫感と興奮、そして脳内に原色でまざまざと活写される冒険譚。

どんなにS・ジャクソンがおもしろいゲームシステムを考えようと、素材を提供しようと、

私たち日本人は、それを母国語に直してくれる腕のよい料理人、

すなわち卓越した語彙とセンスを有する翻訳者がいないと、どうすることもできない。

そのような中、これほどまでしっかり幻想文学の基礎を知り得ていた浅羽莢子さんが

この時代、この日本に遣わされたことを、私たちは女神リブラに感謝しなければならないでしょう。

 

まだまだ私の心中に、惜別の言葉はとめどなく浮かんできます。

しかし際限なく続けてもキリがありますまい。

それこそ、追悼の辞でもっとも嫌われるであろう

独善に満ちた、自己憐憫と自己満足の集合文に他なりません。

ですので最後に「諸王の冠」の結末に記された、ある一節を紹介したいと思います。

彼女の業績を讃えるに、これ以上の文章は、見つからないからです。

 

君の冒険は伝説となり、同胞の間で何世代にもわたり語り伝えられる。

旅は終わった。ゆっくり休んでよいだけの働きをしたのだ。

 

浅羽莢子さん、あなたが訳した文章です。そして、あなたに捧げる文章です。

どうか安らかにお眠りください。

 

 

 

平成181013

Livre dont vous êtes le héros(君が英雄になれる本)

管理者 マッコイ