レポート「サンセリフゴシックの変遷」

 これは、僕の所属するR大学経済学部経営学科の「基礎演習」という科目で、「企業の発展要因とは何か?」というテーマのレポートだったにもかかわらず、それに無理やりこじつけた形で自分の好きなコトを書きなぐってしまったものです(^^ゞ それなりの評価をくれた担当の先生に感謝しないとですね。

 尚、レポート内で使用した画像は著作権の問題上すべてカットしてあります。それぞれのメーカーのHPにきちんとサンプル画像がありますのでそちらをご参照ください。引用された文章については基本的にカットしていませんが、出所を明確にした上で、決して営利その他を目的に使用するものでもなく、著作者の権利を軽視するものではないことをご理解ください。

■1.序論

1.レポートの動機
 角ゴシック体にもさまざまな種類がある。その中でも今回注目したいのが「サンセリフゴシック体」である。世の中でDTPが普及する前、雑誌・ポスターで入力される書体は写植による印刷が中心であった。そこでは(株)写研の「ゴナ」が世のスタンダードなサンセリフゴシック体として多くの印刷業者に親しまれていた。しかしながら、世にDTPが普及するや否や、(株)モリサワの「新ゴシック(以下:新ゴ)」が爆発的に普及し、私たちは1日に1回は必ずモリサワの新ゴを目にするのではないかと思うほどのシェアを獲得したのである。

 はじめ均衡状態にあったこの2つの企業(もとは2つとも写植から始まったのだが)は、写研が東京、モリサワが大坂に本拠地を構えることから、「東の写研・西のモリサワ」と呼ばれていた。今現実的な視点で見て、決して写研がモリサワに匹敵するようなシェアを獲得しているとは言いがたい状況になっている。しかし実は、荒々しい表現を用いるが、写研がモリサワを罵倒するような手段というのはいくらか考えられるのである。

 私たちとは1つジェネレーションギャップを隔てた世代の印刷屋さんはこう言うらしい、「最近の奴らはモリサワの新ゴのほうが見慣れているだなんて、世の中も変わったなあ」と。今も写研のゴナを愛してやまない人々が山ほど存在しているのである。そしてそれは決して懐かしさへの衝動ではないことは自明である。

 それぞれの企業の経営理念と書体のシェア・業績との関係をなるべく突き止めていくことがこのレポートの最終的な目標である。それはサンセリフゴシックに限った話ではない。それ以外にも世の中を震撼させるような書体シェアの目まぐるしい入れ替わり劇が存在するのだ。それらについて経営的な視点と、私の乏しいアート感覚の視点から眺めていきたいのだ。

2.レポートの概要
 全体を2部構成とし、第1部には(株)写研と(株)モリサワを中心にサンセリフゴシックを扱い、第2部はそれ以外のサンセリフゴシックについて述べるものとする。中間レポートではこれ以外にも内容があったのだが、サンセリフゴシック体の項目だけでかなりの分量を割いてしまったために、最終レポートはこの項目だけに絞ったことをここでお断りしておく(注:最終レポート(このレポートの形態)にする前に草稿(これが中間レポート)を提出している)。

●第1部 サンセリフゴシック体の変遷
  ―(株)写研の「ゴナ」と(株)モリサワの「新ゴシック」を中心とするー
   ・2つの写植会社成立から今までの歴史
   ・2つの書体のプロポーション的差異
   ・著作権をめぐる裁判
   ・インターフェイスの作成
●第2部 その他のサンセリフゴシック体
   ・使用用途など
   ・写研「ゴナ」の偽物と(一般に)呼ばれている存在
     @雑誌付属CD「サイン中角ゴシック体」
     A(株)ラムダシステムズのテロップ書体

■2−第1部 サンセリフゴシック体の変遷 写研の「ゴナ」とモリサワの「新ゴシック」

1.2つの写植会社成立から今までの歴史
 サンセリフゴシック体の話に入る前に、その書体を作るに至ったまでの歴史と、写研とモリサワがなぜここまでライバル視されるのかということを明確にしておきたい。

●写真植字(写植)とは?(注1)
 今の時代ではDTPが爆発的に普及しているために、なかなかお目にかかることも聞くこともなかろう言葉であるので、少し前置きをおいて説明しておくことにする。

 写真植字(photo compsition)とは、それが登場する前に主流だった活字印刷で使われるような金属活字を一切使わず、文字盤とレンズの特性によって写真的な操作で文字や記号の部分を組み、印刷のための版下を作る技術のことである。

 つまり、「写真による植字」方法のことをいう。写植は文字盤を変えることで、書体が変わり、レンズを選択することで、文字の大きさや形を変えることができる。文字は感光材料の使用によって、光学的に植字されていくのである。とりあえず、鉛の活字を全く使わずに、文字の部分を組む方法のことをいうのである。

※参考(図1)活字(写植の前の主流)と写植の特徴

活字→ホットタイプ→金属を熱で溶かす。熱い。汚い。大きな設備。男の職場。鉛公害。
写植→コールドタイプ→女性のオペレーターが多く、手を汚さず、繊細な手仕事。機械1台は1つの机ぐらい小さい。

●写植機の発明者(注2)
 日本の写真植字機は、1924年に、当時37才の石井茂吉と、当時23才の森沢信夫という2人の人物によって発明され、試作機がつくられた。というのも前述した活字印刷では、日本語が使用する文字数がとにかく多いがために、膨大な量の活字のストックが必要となるのである。したがって、「はなはだ不便である」ということで、石井と森沢がその研究に取り組んだ。その技術が発展し、現在に至っているのである。しかしその後、石井は「写研」を、森沢は「モリサワ」という代表的な写植メーカーをつくりあげる(図2)。

(図2)代表的な写植メーカーの成立

1924年(大正13年)  石井茂吉 → 写研       
                森沢信夫 → モリサワ

 石井茂吉はレンズと文字系統の完成に力を注ぎ、森沢信夫は「文字は活版で」という当時の常識を打ち破り、印字・印刷の世界に革命的な変化をもたらした。

 こうした写植機の特許出願は、1924年のことである。翌1925年、試作第1号機が完成する。更に翌1926年、写真植字研究所ができる。これが現在の写研である。石井氏の東京・荒川の土手に近い木造2階建ての2階1間、4.5〜6畳の部屋が最初の研究所だったという。当時の工場長は機械に強い森沢信夫が担当していた。

 一方、森沢は石井と一緒に写研をたちあげたのち、同社を退社(意見の違いが原因と言われる)、1948年、独自に「写真植字機製作株式会社」として創業したのが、現在のモリサワ(1971年に社名変更)である。本社は大阪市浪速区(創業時の本社は大阪市西城区)(注3) 。

●写植の文字
 写植の文字は、活版印刷に比べると大変に書体の種類が多く、特に同一のコンセプトの書体であっても、細いものから太いものまで多種多様、そのファミリーの幅が大きく、極めて多くの書体が揃っているのである。そして、まさにその<書体が豊富である>というところに、写植の持つ最も大きな特徴がある 。(注4)

(表1)写植時代〜モリサワ新ゴシックまでの代表的な書体(注5)

書体名 発売年 制作・発売会社 /作者 写植 フォント
石井太ゴシック体 1933 写研/石井茂吉
石井中明朝体 1933 写研/石井茂吉
アンチック体 1935 写研/石井茂吉
見出ゴシック体MB31 1962 モリサワ
タイポス 1962 グループタイポ
記号BA-90 1968? 写研
モトヤアポロ 1969 モトヤ タイプ活字として発売
ナール 1973 写研/中村征宏
見出ゴシック体MB101 1974 モリサワ
ゴナ 1975 写研/中村征宏
ピコカジュアル 1970年代? 小塚昌彦
リュウミン 1982 モリサワ
ゴカール 1986 写研
平成明朝体 1989 日本規格協会/リョービ
新ゴシック体 1989 モリサワ/小塚昌彦

●2つの創作フェイスコンテスト
 文字盤改良に対するニーズを背景に、写研では「石井賞創作タイプフェイスコンテスト」が行われるようになる。そして1970年5月、「第1回石井賞創作タイプフェイスコンテスト」の授与式が行われた。そこで応募作品118点の中から第1位に選ばれたのが、当時名古屋のクリエイティブセンターに努めていたデザイナー中村征宏氏の作品である。これは丸ゴシックの細字スタイルで、1972年にナカムラの「ナ」をとってナールと名づけられて発売され、今でも、極めてポピュラーなものとしてよく使われている。(注6)

(図3)ナール(上がナールL・下がナールD) (注7)
<カット>

 そうすると、「ゴナ」という書体の「ナ」は、やはり中村征宏氏の作品であるので、ナカムラの「ナ」をとっているのだろうと思われる。「ナカムラ」の「ナ」と「ゴシック」の「ゴ」を組み合わせたものが「ゴナ」であろう。初めに発売されたウェイト(注8) は、「ゴナU」と言い、ゴナシリーズの中で最も太いウェイトである。「ゴナU」は写研の依頼により、「ナール」をデザインした中村征宏氏によって制作され、1975年に発売された。アクセントのないフラットな線で構成され、字面いっぱいにデザインされた超特太ゴシック体で、太いわりには明るく都会的でスマートな印象を与える。そして、それまでのゴシック体は泥臭いというイメージを完全に払拭した、極めて新鮮で画期的なゴシック体である。ポスターなどに盛んに使われたが、そのうちにもう少し小さく使ったときに潰れないものがほしいとの外部からの要望で「ゴナE」が、やはり中村氏によって制作された。折しも「ポパイ」に代表されるビジュアル雑誌ブームに乗り、ゴナは爆発的に普及した 。(注9)

(図4)ゴナU (注10)
<カット>

 一方モリサワも、国際的な写植の文字盤のコンテストを行っている。1984年にモリサワは「第1回国際タイプフェイスデザインコンテスト モリサワ賞」を設けて以来、3年ごとに大会を開いており、漢字文化圏とアルファベット文化圏にまたがるワールドワイドな創作書体のデザインコンテストとして、現在最も権威のある文字盤のコンテストとして名を馳せている。

 ということを見てみると、写研とモリサワは、あらゆる共通要素を持ち合わせていることが分かる。ただ、写研のあとをモリサワが追っているような感じがすることは否めない。同じようなことが、サンセリフゴシック体についても言えるのではないか。これから見ていくことにしたい。

●「サンセリフゴシック」の定義
 さて、今までサンセリフゴシックという言葉を何回も登場させてきたが、まずはお節介ながらこの言葉の定義を明確にしておきたい。

 セリフ(serif)とは文字の端に付くひげ飾りのことをいう。和文書体ではこのひげのことを「ウロコ」と言うが、このひげを持っている書体が「セリフ」である。したがってサンセリフ(sans serif)
というのは「セリフのない書体」という意味である。要するにひげ(ウロコ)を持たない書体のことを指す。現代的でシャープなイメージがあり、本文以外にも見出しやタイトルロゴなどに利用される。(注11)

●モリサワ「新ゴシック」の登場
 この書体は、1989年、モリサワが当時見出しゴシック体として売り出していた『ツデイ』ファミリー(1979〜)の後継として、小塚昌彦氏が制作の中心となり制作された。新ゴシック体に関しては「モダンな字面を保ちつつ、平仮名に草書の運筆を取り入れた」とモリサワのサイトの説明にある 。(注12)

詳細は後述するが、現在一番普及しているサンセリフゴシック体である。我々が普段生活していてこの書体を見ない日はないと言われるほど世の中に浸透している書体なのである。

(図5)新ゴシックU (注13)
<カット>

2.2つの書体のプロポーション的差異
 さて、これより写研のゴナとモリサワの新ゴについての本題に入るわけだが、まずは両者を比較してみるところからはじめたい。単純に見た目から、素直な私の意見を書きたい。

(表2)2つの書体の比較 <参考画像はすべてカット>(注14)

ゴナ

書体名 参考画像
ゴナM
ゴナD
ゴナDB
ゴナE
ゴナU

新ゴシック

書体名 参考画像
新ゴL
新ゴR
新ゴM
新ゴB
新ゴU

 かなり小さい画像なのでなかなか細かく見ることができないが、正直かなり似ている。ぱっと差し出されてどちらの書体かと言われても、素人目の私たちの視点からでは判断が付かない。そこで、詳細は後述するのだが1993年、写研はモリサワに対して著作権侵害差止請求の裁判をおこし、そこに両書体の違いに述べられているので、それを要点だけ抜き出し、参考にすることとする。

(参考)「印刷用書体ゴナU対新ゴチック体U事件」の判例による両書体の違い

●第1審 大阪地裁 1997年6月27日

ア)漢字について
(1)「道」「通」「還」「途」「返」等の「しんにゅう」について、ゴナは、右はらいがごくわずか右上がりに湾曲した曲線であり、左打込み部の下端と段差がついていないのに対し、新ゴシック体は、右はらいが水平であり、左打込み部の下端よりわずかに位置が高くなっていて段差がついている(段差がついていないと、錯視により右下がりに見える)。
(2)「径」「徒」「待」「徳」「街」等の「ぎょうにんべん」について、ゴナは、上はらいの角度が下はらいの角度よりやや寝ているのに対し、新ゴシック体は、二本のはらいの並びがほぼ平行である。また、新ゴシック体Uは、二本のはらいの上端の角度がゴナUと比べて水平に近く、新ゴシック体Lは、上はらいの始端がゴナMと比べて左寄りにある。
(3)「狼」「狩」「猶」「猫」「獲」等の「けものへん」について、ゴナは、縦の線の下半分が直線に近いのに対し、新ゴシック体は、縦の線が自然なカーブになっている。
(4)「極」「橋」「機」「械」「相」等の「きへん」について、ゴナMは、第二画、第三画、第四画の各線が集中する中央部分において各線が重なり合わないように斜めに細くなっているのに対し、新ゴシック体Lは、右のはらいの始端の位置が下げられている。
(5)「活」「済」「沢」「治」「法」等の「さんずい」について、新ゴシック体は、第三画のはらい上げの角度がゴナより寝ており、この傾向は新ゴシック体UとゴナUとではより顕著である。
(6)「恋」「忘」「忌」「忠」「患」等における「心」の字について、新ゴシック体は、中の点がゴナと比べて寝ていて中心位置にあり、下部の鍵形の縦線はゴナと比べて始端位置が低くて短い。
(7)「皮」「破」「被」「波」「披」等における「皮」の字及び「虚」「虐」「虎」「虞」「虜」等における「とらがしら」について、ゴナは右端が直角の縦線になっているのに対し、新ゴシック体は右端が左下へはらいの形になっている。また、「皮」等における「又」の字について、ゴナは、右はらいが横線とくっついているのに対し、新ゴシック体は、右はらいが横線と離れている。
(8)「分」「公」「兌」「盆」「貧」等における「八」について、新ゴシック体は、ゴナと比べて左はらいの始端と右はらいの始端との間隔が広い。
(9)「儲」「奢」「曙」「偖」「屠」等における「者」の旧字「者」の点「、」の位置について、ゴナは外側にはみ出しているのに対し、新ゴシック体は内側に納まっている。
(10)「去」「弁」「参」「允」「畚」等における「ム」について、新ゴシック体は、ゴナと比べて左はらいが左寄りであるため、右の点「、」の始端との間隔が広い。
(11)「今」「念」「稔」「衿」「吟」等における「今」の「フ」について、ゴナは左はらいの先端が左方へ長く延びているのに対し、新ゴシック体は左はらいの先端が左右の中心に近いところで止まっている。
(12)「然」「黒」「煎」「熱」「照」等における「れんが」について、ゴナは第一点ないし第四点の下端がほぼ水平であるのに対し、新ゴシック体は中の第二点及び第三点の下端が少し上がっている。

イ)平仮名について
(1)「う」「え」について、ゴナは第一画の点「、」が下向きにやや湾曲しているのに対し、新ゴシック体は上向きに湾曲している。
(2)「お」について、新ゴシック体は、ゴナと比べて第三画の点「、」が角度が立っていて長い。
(3)「た」「に」について、新ゴシック体は、ゴナと比べて第四画(た)又は第三画(に)の始端が第三画又は第二画の終端に向けて大きく右方にカーブしている。
(4)「ふ」について、ゴナは、中央上の線が上向きにわずかに湾曲しているが全体としてほぼ水平であるのに対し、新ゴシック体は、中央上の線が上向きにわずかに湾曲しながら右下がりになっている。
(5)「む」について、ゴナは、縦画から続くループ部の終端の右払い上げが比較的小さく、垂直に近く、先端が右下がりの直線でカットされているのに対し、新ゴシック体は、縦画から続くループ部の終端の右払い上げが大きく、左方に傾いており、先端が左下がりの直線でカットされている。
(6)「も」について、新ゴシック体は、ゴナと比べて縦線の終端のはらい上げが大きく、下側横線の位置を越えるところまで延びている。
(7)「や」について、ゴナは点「、」が下に突き出ていないのに対し、新ゴシック体は点「、」が下に突き出ている。
(8)「ゆ」について、ゴナは、ループ部の終端が比較的短く、左斜め上を向いているのに対し、新ゴシック体は、ループ部の終端が比較的長く、ほとんど上方を向いている。
(9)「り」について、ゴナは左縦線の始端と右側縦画の頂点の位置がほぼ同じであるのに対し、新ゴシック体は左縦線の始端より右側縦画の頂点の位置が下がっている。
(10)「れ」について、ゴナは「つくり」の終端をはね上げているのに対し、新ゴシック体は終端を下方に払っている。

●第2審 大阪高裁 1998年7月17日
(1)「四」や「西」の右のかぎが、ゴナでは直角に右縦線とつながっているのに対し、新ゴシック体では跳ね上がっていて右縦線と接していない
(2)「下」の点が、ゴナでは、縦線と離れているか(ゴナM)、一部離れている(ゴナU)のに対し、新ゴシック体では縦線と完全に重なっている
(3)「家」の右側の左はらいと右はらいのつながり方がゴナと新ゴシック体とで異なる
(4)「外」の「ト」の右はらいの始筆が、ゴナでは「タ」と重なっているのに対し、新ゴシック体では離れている
(5)ゴナMでは「来」の点とはらいが下の線とつながっているのに対し、新ゴシック体Lでは離れている
(6)ゴナMでは「町」の「丁」が「田」とつながっているのに対し、新ゴシック体Lでは離れている 

●最終審 最高裁 2000年9月7日  特に両書体の違いに付いては述べられていない。

 というように、全3回の裁判で、28箇所について判例では述べられている。やたら分量が多いように見えるが、たった28箇所である。日本語の文字数はある程度想像できうるだろうが実にたくさんある。以下の数字と比べてみてほしい。

(参考)OpenType(注15) フォントStd.Pro使用の文字数

・Adobe Japan1-3 …… 9,354字
・Adobe Japan1-4 ……15,444字(モリサワのPro仕様)
・Adobe Japan1-5 ……20,317字

 さて、一応モリサワのOpenTypeフォントのPro使用の文字数をあげてみると15,444字である。これと比べると28箇所(厳密に言うと「しんにゅう」「ぎょうにんべん」などは何種類もあるため、この2つの数字を比べるのはかなり無理があるのだが)なんて微たるものではないだろうか。しかも普段さっと目を流す分にはなかなか気がつかない(そもそも2つの書体の違いをよく知らない、あるいは2つの書体があることを知らない人も大勢いるだろうから)ので、やはりこの2つの書体は、非常に酷似しているというほかないだろう。

 しかしながら、いざ良く見てみると受けてみる印象はやはり違う。次の図を見てもらいたい。

(図6)ゴナUと新ゴUの比較 (注16)
<カット>

 ここからは完全なる私の主観であるが、新ゴよりゴナのほうが、曲線部が多く温かみのある感じがする。しかも、ゴナはきちんと形が収まっている印象を受ける。一方新ゴはゴナに比べかなり直線的な要素が多く、文字を詰めた時に違和感がある。とはいえ逆に新ゴはその直線を多く用いたデザインからかなり近未来的で新鮮さを感じる。今述べた直線的要素と文字の太さのアンバランスなどで新ゴはゴナユーザーから嫌われる傾向にある。しかしながら2つの書体は瓜2つながら両方長所はあると思う。ただ、総括的に考えると、写研のゴナのほうがコストパフォーマンスの高い書体であろうというのが私の素直な感想だ。

 この2つの書体を調べてから、最近街中のいろいろなサンセリフゴシックに目が行くようになった。最近久々に東京メトロに乗ったら、大手町や銀座などの主要駅で駅の案内板のフォントが新ゴになっていた。これから徐々にこの新しいデザインが東京メトロ全域に広がっていくものだろうと思われる。やはり新ゴもよくできた書体で、それが持つ近未来的なイメージには毎回目を見張らされる。今までの古臭い東京メトロの案内板が角ゴシック1つでここまで雰囲気が変わるものかと驚かされた記憶がある。

 一方で、現在わずかではあるが雑誌、あるいは家の奥底に眠っている古い雑誌をめくってみると写研のゴナをみることができる。たしかにこの書体もサンセリフゴシックであるので新鮮な感じを与えてくれるのだが、ものすごく温かみを帯びている感じがする。近未来的な新ゴに目が慣れてしまった僕ら(注17)には、逆に心が落ち着かせられたり、ちょっと古っぽいなあと思わせられたりする。

 以上、まとまらないが、私の見解とさせて頂く。

3.著作権をめぐる裁判
 さて、2でも見たように、写研のゴナとモリサワの新ゴ、この2つの書体は、非常に酷似している。写研は「ゴナのデザインを盗んだ」としてモリサワを提訴した。この裁判は、1審・2審・最終審まで進み、それぞれ判例文を読む限りかなり内容は泥沼化していると言える。

(図7)「印刷用書体ゴナU対新ゴチック体U事件」の推移

●第1審 大阪地裁 1997年6月27日     結果…原告の本訴請求および被告の反訴請求いずれも棄却
●第2審 大阪高裁 1998年7月17日     結果…控訴棄却
●最終審 最高裁 2000年9月7日       結果…上告棄却

 いずれの判決も、写研の敗訴という形で終わっている。なぜ写研はこれほどまでに主張が認められることがないのであろうか。キーワードは「意匠法」である。

●意匠法(注18)
 これによる保護を目的とする書体もあるだろうが、現行の意匠法では工業製品に意匠を目的として作られているため、形状のある物品を保護対象としている。タイプフェイス(書体)は物品ではないために、意匠法では保護されない。第2審の判例にも、以下のように記されている。

美術の著作物は、絵画、版画、彫刻等、思想又は感情を創作的に表現した著作物であって美術の範囲に属するものをいう(著作権法二条一項一号、一〇条一項四号)。そして、著作権法二条二項の規定や同法制定の経緯等に照らせば、著作権法上美術の範囲に属するといえるためには、純粋美術あるいは艦賞美術の作品ということができる必要があり、実用品である美的創作物ないし応用美術作品については、原則として意匠法等工業所有権制度による保護にゆだねられているのであって、これらも広く著作権法上の美術の著作物に当たると解することはできない。しかし、客観的、外形的にみて純粋美術としての絵画等と何ら質的差異がなく、これらと同視し得るような創作物については、それが実用品であるからといって、およそ美術の著作物に当たらないとするのは相当ではない。創作の目的、創作後の現実の利用形態とは別に、その創作物を客観的にみた場合、社会通念上、実用性の面を離れて一つの完結した美術作品として美的鑑賞の対象となり得ると認められるもの、純粋美術と同視し得るものについては、美術の著作物として保護されると解するのが相当である。
 本件で問題とされるゴナ等のようなタイプフェイス(印刷用書体)は、個々の漢字、仮名、アルファベット等の字体を実際に印刷などに使用できるようにするために、統一的なコンセプトに基づいて制作された文字や記号の一組のデザインであって、大量に印刷、頒布される新聞、雑誌、書籍等の見出し及び本文の印刷に使用される実用的な印刷用書体であり、その性質上、万人にとって読解可能で読みやすいといった文字が本来有する情報伝達機能を備えることが最低限必要であるとともに、何よりも重視されるものである。したがって、その形態については、そこに美的な表現があるとしても、情報伝達という実用的機能を十全に発揮し、特定の文字として認識され得るように、字体を基礎とする基本的形態を失ってはならないという制約を受けるものである。このような書体における創作性は、情報伝達機能を発揮するような形態で使用されたときの見やすさ、見た目の美しさ、読み手に与える視覚的な印象等の実用的な機能を発揮させることを目的とし、その目的にかなう手段として一定の特性を持たせるという側面が大きい。すなわち、このような書体は、字体を表現する具体的形態であり、印刷文字として人々の日常生活に利用されるものであるから、書体の制作者(デザイナー)は、その表現しようとする文字形態を、まず読者に読みやすく、分かりやすく、かつ、見た目にも美しいものとなるように、特定のコンセプトの下に制作しようとするものである。その制作において、制作者は、骨格の決定、文字を形成する縦線・横線等のウエイト、へん・つくりのバランス、はらい等のエレメントのバランス、字画の多少によるウエイトの調整等の工夫を行うものであり、それにはかなりの労力・時間・費用を要するものであることは推察するに難くない。しかしながら、書体は、右のとおり、字体を分かりやすく、読みやすいものとして表現しなければならないということから来る大きな制約があり、骨格の決定においても、字体から遊離することは許されないはずであり、文字を形成する縦線・横線等のウエイト、へん・つくりのバランス、はらい等のエレメントのバランス、字画の多少によるウエイトの調整等を工夫する面においても、その裁量の幅は大きくなく、また、過去に成立した各種書体からの大きな差異を創出する余地も余りないものといわなければならない。このような書体に内在する制約や書体の実用的機能にかんがみると、書体は、純粋美術として成立する「書」とはかなり趣を異にし、一般的に、知的・文化的活動の所産として思想又は感情を創作的に表現する美術作品としての性質まで有するに至るものではなく、これに著作権の成立を認めることは困難といわなければならない

 非常に長い文ではあるものの、なかなか略すことができなかったので全文載せておいたが、太字の部分だけ見れば言わんとするところは明らかであろう。タイプフェイスの法的保護という概念が作り上げられるのは、まだまだ先の話になりそうである。ただ、逆に考えればこのようなことが言えるのである。「もし、タイプフェイスの法的保護が認められれば、モリサワなどゴナに告示したサンセリフゴシックを作成した企業はどうなってしまうのであろうか?」

●類似性(注19)
それともう1つ問題になるのが、類似性という判断基準がないということである。どういうことかというと、このレベルの話になってくると、専門家から見て、この件のような場合に被告が意識的にとある文字の細部において、若干手を加えて変えていると思えるような事実が浮き出てくることがある。当然それが真実なのか偽りなのかという問題に発展するわけで、類似性という判断基準が必要になってくるわけである。

特定非営利活動法人日本タイポグラフィ協会の「知的所有権研究委員会」では、当初著作権保護のための課題として、類似性の判断基準作りに取り組んだ。この意欲的な試みにフォントメーカーやタイプデザイナーは期待をかけていたが、類似性の判断基準をまとめるのが困難になり、テーマを「創作性」にウエイトをおいた「知的所有権」活動に改めているという。

 このレポートの8・9・10ページに渡るような情報に、すべて判断基準を設けるようなものなのだろうか。それ以外にもさまざまは判断基準を作らなければいけないだろう。無謀および困難としか言いようがない。しかし何らかの基準を作らないわけにもいかないでああろう。とても難しい問題である。これからの動向に注目したい。

4.インターフェイスの作成
 さて、レポートの動機にも記した通り、今現実的な視点で見て、決して写研がモリサワに匹敵するようなシェアを獲得しているとは言いがたい状況になっている。1番大きな原因はここにあると考える。そこで、まずインターフェイスについて両社を比較し、更に最近のモリサワの動向に注目して、どのように自社の書体を広める企業努力をしているのかを見ていきたい。

●媒体
 まず簡潔に結論だけを見ると以下の通りである。

(図8)モリサワと写研の書体配布形態の違い

写研  →写植機
モリサワ→写植機・Macintosh用フォント (そのほかにも書体配布形態はあるが後述する)

 モリサワというとMacDTP用フォントというイメーシがあるものの、一応第2の写植メーカーであったので写植機でもモリサワのフォントは存在する。ただ、モリサワのフォントが使われるのは今やほとんどDTPの世界の上での話であろう。

 さて、この両社は資料により経常利益などを調べられる会社ではないので、なかなかシェア・利益で両社を比較することは難しいのではっきりとしたことが言えないのが残念でならないが、約10年以上前、写研の書体のシェアは東京で95%・大阪で90%に達していたといわれている。これは写植機に両社の書体が搭載されていた中での話なので、結果的に写研の書体のほうがプロダクトとして人々に親しまれていた事が分かる。写研の持つ書体の個別ブランドは総称して「写研テイスト」と呼ばれていたようである。ではなぜ写研書体は今ほとんどお目にかからなくなってしまったのか?

 それは間違いなくDTP(注20)の出現であろう。上の図9からもわかるように、写研は未だにDTPユーザに対するインターフェイスを開発していないのである。特にサンセリフゴシックについて、ゴナから新ゴシックにその座を明け渡した要因は、単純に
・写研のゴナに酷似した書体であること
・MacDTP(今でもDTPといえばMacintoshが主流な気がするが)ユーザ用のインターフェイスが開発されていたこと。要はコンピュータでフォントが使用できるようになったこと。
の2点である。

 さて、ここではDTP=MacDTPのごとく記しているが、最近はWindowsでDTPをという動きが高まっている。Windowsと言えばTrueTypeフォント(注21) が一般的であったが、これはDTPには向かないとしてそれの用途に使うことを拒まれてきた。ただ、最近は新しいフォーマットが開発され、更にモリサワもそれに対応しているのである。次にそれを見ていくことにしたい。

●OpenTypeフォント
 これについては11頁の脚注に示した通りである。ただ、これについてはモリサワの限りではない。大日本スクリーンやイワタといった他のフォントベンダーもこの形式に次々と対応している。未来に普及すると思われるWindowsDTPに向けて、遅れを取らないためとも考えられなくもない。

●MORISAWA PASSPORT(注22)とはなにか?
 モリサワの書体は私にはとても手が出せないほど高い。デザイナーを生業にしている人々にとっては大した価格ではないのであろうが、たとえばこのような価格帯である。

(表3)モリサワのOpenTypeフォントの定価(注23)

OpenTypeフォントシングルフォント(Mac版、Win版共) 希望小売価格(税込)
新正楷書CBSK1、新ゴEL、新ゴL、新ゴR、新ゴM、新ゴDB、新ゴB、新ゴH、新ゴU、リュウミンR-KL、リュウミンM-KL、リュウミンB-KL 、リュウミンEB-KL、リュウミンH-KL、リュウミンEH-KL、リュウミンU-KL、じゅん34、じゅん201、じゅん501、ゴシックMB101L、ゴシックMB101R、ゴシックMB101M、ゴシックMB101DB、ゴシックMB101B、ゴシックMB101 H、ゴシックMB101 U、教科書ICA L、教科書ICA R、教科書ICA M、フォークR、フォークM、フォークB、フォークH、新丸ゴL、新丸ゴR、新丸ゴM、新丸ゴDB、新丸ゴB、新丸ゴH、新丸ゴU、楷書MCBK1、カクミンR、カクミンM、カクミンB、カクミンH、丸フォークR、丸フォークM、丸フォークB、丸フォークH ¥27,300
毎日新聞明朝L、毎日新聞ゴシックL ¥35,490
筆順ICA R、筆順ICA M ¥42,000
光朝(Std)、タカハンド L(Std)、タカハンド M(Std)、タカハンド DB(Std)、タカハンド B(Std)、タカハンド H(Std)、勘亭流(Std)、那欽(Std)、陸隷(Std)、A1明朝(Std)、欧体楷書(Std)、正楷書CB1(Std)、ハルクラフト(Std)、プリティー桃(Std)、隷書101(Std) ¥21,000
学参常用対応リュウミンL-KL、中ゴシックBBB、太ゴB101、新ゴL、新ゴR、新ゴM、新ゴB、リュウミンR-KL、リュウミンM-KL、リュウミンB-KL、じゅん34、じゅん501、教科書ICAL、教科書ICAR、教科書ICAM、新丸ゴL、新丸ゴR、新丸ゴM、新丸ゴ ¥27,300
OpenTypeフォントパックパッケージ(Mac版、Win版共) 希望小売価格(税込)
基本7書体 リュウミンL-KL、中ゴシックBBB、太ミンA101、太ゴB101、じゅん101、見出ゴMB31、見出ミンMA31 7書体パック ¥47,250
Pack1 リュウミンR-KL、リュウミンM-KL、リュウミンB-KL、リュウミンH-KL、リュウミンU-KL 5書体パック ¥109,200
Pack2 新ゴL、新ゴR、新ゴM、新ゴB、新ゴH、新ゴU 6書体パック ¥131,040
Pack3 じゅん201、じゅん34、じゅん501 3書体パック ¥73,710
Pack4 ゴシックMB101 B、ゴシックMB101 H、ゴシックMB101 U 3書体パック ¥73,710
Pack5 教科書ICA L、教科書ICA R、教科書ICA M 3書体パック ¥73,710
Pack6 新正楷書CBSK1、リュウミンR-KL、リュウミンM-KL、リュウミンB-KL、リュウミンH-KL、リュウミンU-KL、新ゴL、新ゴR、新ゴM、新ゴB、新ゴH、新ゴU、じゅん201、じゅん34、じゅん501、ゴシックMB101 B、ゴシックMB101 H、ゴシックMB101 U、教科書ICA L、教科書ICA R、教科書ICA M 合計21書体 ¥458,640
Pack8 フォーク R、フォーク M、フォーク B、フォーク H 4書体パック ¥88,200
Pack9 新丸ゴ L、新丸ゴ R、新丸ゴ M、新丸ゴ DB、新丸ゴ B、新丸ゴ H、新丸ゴ U 7書体パック ¥153,300
Pack11 かなモジアンチック 11書体パック ¥63,000
Pack13 毎日新聞明朝L、毎日新聞ゴシックL 2書体パック ¥60,060
Pack14 勘亭流(Std)、楷書MCBK1 2書体パック ¥42,000
Pack15 リュウミン小がな、オールドがな 12書体パック ¥52,500
Pack16 秀英3号かな、秀英5号かな 12書体パック ¥52,500
Pack17 タカハンドL/M/DB/B/H (Std) ¥73,500
Pack18 ゴシックMB101L、ゴシックMB101R、ゴシックMB101M、ゴシックMB101DB 4書体パック ¥88,200
Pack19 リュウミンEB-KL、リュウミンEH-KL 2書体パック ¥51,870
Pack20 新ゴEL、新ゴDB 2書体パック ¥51,870
Pack23 リュウミンR-KL、リュウミンM-KL、リュウミンB-KL、リュウミンEB-KL、リュウミンH-KL、リュウミンEH-KL、リュウミンU-KL 7書体パック ¥153,300
Pack24 新ゴEL、新ゴL、新ゴR、新ゴM、新ゴDB、新ゴB、新ゴH、新ゴU 8書体パック ¥174,720
Pack25 ゴシックMB101L、ゴシックMB101R、ゴシックMB101M、ゴシックMB101DB、ゴシックMB101B、ゴシックMB101H、ゴシックMB101U 7書体パック ¥153,300
Pack26 ゼンゴN かな 7書体パック ¥43,050
Pack27 ハッピーN かな 7書体パック ¥43,050
Pack28 墨東N かな 7書体パック ¥43,050
Pack29 わんぱくゴシックN かな 7書体パック ¥43,050
Pack30 タイプラボN かな 7書体パック ¥43,050
Pack31 キャピーN かな 7書体パック ¥43,050
Pack32 はせトッポかな 7書体パック ¥43,050
Pack33 カクミンR、カクミンM、カクミンB、カクミンH 4書体パック ¥88,200
Pack34 丸フォークR、丸フォークM、丸フォークB、丸フォークH 4書体パック ¥88,200
Pack37 ネオツデイ 16書体パック ¥78,750
Pack38 学参かな 12書体パック ¥68,250

 さて、(表3)を見ると、シングルとパッケージの2種類の販売方法があるのが分かる。なかなか実感が湧かないもしれないので少しだけ説明するが、普通デザイナーがフォントを購入するときは、後者を好む。太字で示した新ゴをみてほしい。EL/L/Rなどについては5頁の脚注に示した通りであるが、普通フォントを購入する際は、ファミリー(注24)で購入するものである。プロ思考の人はPack24の8書体パックを購入するかもしれない。

(表4)新ゴ8書体パック <参考画像はすべてカット>(注25)

名称 参考画像
新ゴEL
新ゴL
新ゴR
新ゴM
新ゴDB
新ゴB
新ゴH
新ゴU

 やはりプロの目から見れば、使用用途によって微妙な太さの違うフォントが使いたくなるものであろう。この8書体パックは(表4)を見ても分かるようにかなり多くのウェイトが準備されている。私だったらPack20の2書体パックでいっぱいいっぱいだと思うが。

しかしながら、17万は大変な出費である。とにかくDTPはフォントの購入などでコストがかかりすぎるというのが通説であった。しかしこのMORISAWA PASSPORTというのは、モリサワのすべてのフォントラインナップがPC1台につき、1年間52,500円(税込)で、どれでも選べて好きなだけ使える画期的なライセンスシステムである。基本的には1年契約であるが、
・2年以上継続契約した消費者には、3年目、5年目、7年目ごとに契約価格を5%割引した価格で継続契約する契約継続年数割引
・既に利用しているモリサワフォントパッケージを登録している消費者に、保有書体数と申し込みのPC台数に応じて割引率を算出し、標準契約価格の52,500円/年(税込)から割引する総合ポイント割引
・3年・5年分一括払いを希望する消費者に適応される一括払いによる割引
の3つの割引特典まであるのだ。また、契約中に発売された新しいフォントや、既存フォントのアップデートも追加料金なしに利用可能である。

 このシステムにより、今までフォントを買うコストで悩んでいた消費者層・企業・教育機関などをもターゲットにすることが可能になったのではなかろうか。モリサワの書体をひととおり買うよりはるかにコストが下がり、なおかつアップデート・新書体の料金も払う必要がないとなると、とてもお得なシステムだという印象である。ちなみにこれもモリサワに限ったことではなく、他のフォントベンダーも同じような策を打ち出している。ただ、まだやっているところは少ないようだ。

(表5)各フォントベンダーの年間契約ライセンス

フォントベンダー名 年会費・月会費制名 備考
例)モリサワ MORISAWA PASSPORT 1年間52,500円(税込)
フォントワークス LETS 入会金31,500円(税込)1年コース37,800円(税込)/1年3年コース25,200円(税込)/1年
イワタ イワタLETS 上に同様

(参考)マッカーシーE.Jの提示したマーケティングミックスの体系(4Ps)による比較
    比較は私が勝手に考察したもの

写研 モリサワ
Product
Price
Place ×
Promotion ×


■2−第2部 その他のサンセリフゴシック体

1.使用用途など
 まず、このレポートのヘッダー以外に使われている書体もサンセリフゴシックの一種である。それについて興味深い事も分かってきたので取り上げてみる。

●イワタ新ゴシック(このレポートで使われている書体)の使用用途
1)日本テレビのテロップ書体として(例:ニュースプラス1(注26))
<カット>

2)(株)コヤマドライビングスクールの電車中釣り広告
3)(株)グラパックジャパン コンピュータソフト超(すご)ネタのパッケージ
などが、この書体を使っているものだと思われる。

 ちなみにこのイワタ新ゴは、モリサワのサンセリフゴシックと名前はそっくりだが、結構性格の違う書体であり、写研のゴナをコピーした書体だとは到底思えない。

(表5)イワタ新ゴとモリサワ新ゴ(とりあえず)の比較<画像はすべてカット>

モリサワ新ゴL イワタ新ゴL
モリサワ新ゴB イワタ新ゴB

 イワタの新ゴを正直、私はモリサワの新ゴが手にはいらないので代わりに…と思って購入した。ただ、曲線部や平仮名の作りの違いが顕著であり、更に数字・英字が決定的に違う、全くもって性格の違う書体であることを使ってみて実感している。逆にそれはメーカーの個性が出ていていいと私は思っている。

 そのほかにもサンセリフゴシックにはさまざまな種類があるが、やはり写研のゴナの影響を受けていることは確かであろう。そこでその他のサンセリフゴシックについても字だけ追って紹介することにするが、1回サンセリフゴシックの影響について簡単にまとめておく。

(図9)サンセリフゴシックの影響

写研「ゴナ」 →モリサワ「新ゴシック」
        →イワタ「新ゴシック」
        →フォントワークス「ニューロダン」
        →リョービ「ナウ」         など

●ニューロダン(フォントワークス) (注27)
<画像カット>

●リョービ「ナウ」 (注28)
<画像カット>

2.写研「ゴナ」の偽物と(一般に)言われている存在
 さて、散々モリサワの新ゴなどについて述べてきたのだが、ここからは、本当にコピーフォントとしか思えない2つの書体について簡単に見ていくことにする。写研もモリサワとの裁判で懲りたのか、あるいはこれらの書体の存在に気付いていないのか(そんなことはないと思われるが)、これらの書体に対するコメントは出していないものと思われる。

●雑誌付属CD「サイン中角ゴシック体」(注29)
 正直この本の存在には驚いた。ある日書店でこの本を見つけてパラパラとページをめくってみると(CD以外の本のページはほとんど書体見本で埋まっている本だった)、なんということだろう、写研のゴナにそっくりであった。一瞬購入しようと思ったが、なんとなくうかがわしい気がするので購入しないでおいた。価格は2,940円(税込)である。こんな値段で売って価格秩序の崩壊を招かないのであろうか。その前にこれを買う人がそこまでいるかどうかという問題があるのだが。
<画像カット>

●(株)ラムダシステムズのテロップ書体(注30)
 この会社はテロップ送出機の会社で、そこで使用されているWindowsフォントである。
LSN太角ゴシック体という名称である。
<画像カット>

 実際、テレビ朝日「ニュースステーション」で使用されていたり、そのほかでもさまざまなテレビ局でこの書体が使われている(画像がみつからないのが残念だが)。

■3 結論
 さて、かなりまとまらないレポートになってしまった感が否めないが、最後に結論をまとめておく。基本的にはレポートないで述べたことがすべてだが、写研からモリサワへ・ゴナから新ゴへ・そしてその要因は何であるのかということである。19頁のマッカーシーの4Psでも示したが、写研のもっている財産・ブランドはかなりのものである。しかしながらそれ以上にDTPの風当たりが強かったのであろう。モリサワに対して失礼な表現だが、多少違っても似ているからコンピュータで使えるこっちを使おうと新ゴの需要が高まった。しかしながらモリサワの経営状態というのは少しばかり厳しいようである。そのせいか、これから発展していくであろうWindowsDTPにも対応すべく然るべき処置を講じているのであろう。このような要因を経て、モリサワはフォントベンダー第1位の座を確保していったのであろう。

 さて、完全に時代に取り残されてしまった感がある写研だが、現在もなお、「写研テイスト」を求めて写植機にのめり込む人々が、多くはないがいるようだ。プロダクトという点で優れている写研が、それをも抱え込んだまま時代に取り残されてしまうのであろうか?このままでは写研の書体を知らない世代が後をたたなくなってしまうどころか、写研のブランドを汚す偽物も出回る可能性がある。時代に取り残された企業と言われ続けていても、自社のブランドの需要が今もなお続いていることを考慮し、何らかの策を講じてほしいものだ。

※脚注一覧

(注1)田中薫「書籍と活字:明治以降の書籍印刷における活字の変遷に関する研究」 書肆緑人館 1999年3月 55・56頁からこのレポートの文脈に合うように表現を一部改めたもの

(注2)田中薫「書籍と活字:明治以降の書籍印刷における活字の変遷に関する研究」 書肆緑人館 1999年3月 58頁からこのレポートの文脈に合うように表現を一部改めたもの

(注3) フリー百科事典「ウィキペディア」で検索した文章を1部引用

(注4)田中薫「書籍と活字:明治以降の書籍印刷における活字の変遷に関する研究」 書肆緑人館 1999年3月 65・66頁からこのレポートの文脈に合うように表現を一部改めたもの

(注5)亮月製作所ホームページ(http://ryougetsu.hp.infoseek.co.jp/shotai.html)より一部抜粋

(注6)田中薫「書籍と活字:明治以降の書籍印刷における活字の変遷に関する研究」 書肆緑人館 1999年3月 68頁からこのレポートの文脈に合うように表現を一部改めたもの

(注7)フォント開発 中村書体室(中村征宏氏のホームページ http://www.n-font.com)より抜粋

(注8)ウェイトとは、太さの段階のこと。表記は、細=L(Light)、標準=R(regular)、中=M(Medium)、太=B(Bold)、特太=H(Heavy)、極太=E(Extra)、超極太=U(Ultra)というように表す。

(注9)字游工房 鈴木勉の本(http://www.jiyu-kobo.co.jp/s_book/sb-text/sb-105gona.html)より抜粋

(注10)フォント開発 中村書体室(中村征宏氏のホームページ http://www.n-font.com)より抜粋

(注11)深沢英次&インプレス編集部編「改訂3版TrueTypeフォント パーフェクトコレクション」 (株)インプレス 2004年5月 6ページよりこのレポートの文脈に合うように表現を一部改めたもの

(注12)亮月製作所ホームページ(http://ryougetsu.hp.infoseek.co.jp/shingo.html)よりこのレポートの文脈に合うように表現を一部改めたもの

(注13)(株)モリサワ ホームページ(http://www.morisawa.co.jp/font/lib/ps_fonts/ps_shingo_u.html)より抜粋

(注14)(株)三秀舎 ホームページhttp://www.kksanshusha.co.jp/fonts/nagfamily.html)より抜粋

(注15)Adobe社とMicrosoft社が共同開発した、拡張されたTrueTypeフォーマット。同一ファイルでPostScript Type1フォントもサポートする。このOpenTypeの最大の特徴は、多言語対応の国際的なエンコーディング標準であるユニコードをベースとすることにより、WindowsやMacOSといったプラットフォームの違いを意識することなく、一つのフォントが両プラットフォームで動作することである。その結果、従来データのやりとりで発生していた「文字化け」や「文字ズレ」などの障害がなくなる。
 さらに、解像度制限がなくなるとともに、ダイナミックダウンロード(プリンターやイメージセッター側に高価なプリンタフォントをインストールすることなく直接出力できること)が可能となり、さらに外字や約物等が大幅に拡張されたので外字の問題を解消することができる。なお、Open Type フォントには文字数の違うStd仕様とPro仕様とがある。(この説明文はhttp://ohkadesign.cool.ne.jp/wabunfont/study/study.htmlより抜粋)

(注16)亮月製作所ホームページ(http://ryougetsu.hp.infoseek.co.jp/shingo.html)より

(注17)ジェネレーションギャップを強調するため、あえてこの人称を使わせて頂く。

(注18)http://www.jagat.or.jp/story_memo_view.asp?StoryID=6316を一部参考にしている

(注19)http://www.jagat.or.jp/story_memo_view.asp?StoryID=6316を一部参考にしている

(注20)Desk Top Publishingの略。 原稿の入力や画像などの制作、組版・レイアウト、出力まで、従来の印刷物の複雑な制作工程を一元化した、パソコンで処理することができるシステムのこと。それまで専門的な知識や能力が必要だったが、DTPではそれほど専門知識がなくても作業ができるようになった。DTPという言葉は、1986年にPageMakerを発売した米アルダス社のポール・ブレナード社長が提唱。ページ記述言語PostScriptの出現によってWYSIWYG(画面で見たとおりに出力されること)が実現し、レイアウトソフトやフォントが充実し、従来の写植と比べても劣らぬ出力品質を得ることができるようになったので、現在では印刷物のほとんどがDTPによって制作されている。出力環境や実績の点でMacによるDTPが主流だが、社内DTPなどではWindowsの方が普及しているともいえる。(この説明文はhttp://ohkadesign.cool.ne.jp/wabunfont/study/glossary/abcde.html#dより抜粋)

(注21)アップルコンピュータ社とマイクロソフト社が共同開発したスケーラブルフォント技術。アドビのPostscriptフォントによる、フォント市場の独占を阻止するために作られた。安価で種類も多いので簡易な印刷物にはよく使われるが、MacではTrueTypeフォントの出力解像度が600dpiまでと制限されているため、イメージセッタ(1200dpi以上が必要)での出力ができないので、本格的なDTPでは使用できない。だが、IllustratorやFreehandなどのドローソフトを使えばフォントをアウトライン化することができるので、そのようにすればセッター出力も問題ない。Windowsマシンでは出力解像度の制限がないのでイメージセッタ出力が可能。Macは漢字Talk7から、Windowsは3.1から対応している。(この説明文はhttp://ohkadesign.cool.ne.jp/wabunfont/study/glossary/pqrst.html#tより抜粋)

(注22)モリサワパスポート(http://www.morisawa-passport.jp)から文章を所々拝借している

(注23)モリサワ ホームページ(http://www.morisawa.co.jp/font/info/list_otf.html)より抜粋

(注24)特定の書体で太さなどが異なるフォントをまとめたもの。「新ゴファミリー」などと使う。(この説明文はhttp://ohkadesign.cool.ne.jp/wabunfont/study/glossary/ha.html#huより抜粋)

(注25)画像はモリサワ ホームページ(http://www.morisawa.co.jp/font/lib/ps_fonts/psgothic_shingoj.html)より抜粋

(注26)http://www1.atwiki.jp/telop/pages/39.htmlの画像を抜粋

(注27)http://ohkadesign.cool.ne.jp/wabunfont/fontworks/classic.htmlより画像を抜粋

(注28)http://ohkadesign.cool.ne.jp/wabunfont/ryobi/ryobi1.htmlより画像を抜粋

(注29)画像は、http://images-jp.amazon.com/images/P/487197572X.09.LZZZZZZZ.jpgのもの

(注30)画像はhttp://www.lambda.co.jp/fon-s-ttf01.htmlより抜粋